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久々の怪談シリーズじゃ。しかし、今回は『人怖』系であるぞよ。
一人暮らしの非喫煙女子が引越したアパートで
恐怖体験をした彼女は、転職やその他の人生の岐路を経て、それまで住んでいた郊外のアパートから都心にあるリノベーション済みの綺麗なアパートに引越したばかりだった。
2階建の2階で、見た目は新築とほぼ変わらず、女性専用でペット不可、タバコも不可、ゴミ出しのルールが厳しいなどがあったが、潔癖症で臭いにも敏感な彼女にはむしろ理想の条件だった。
身に覚えのないタバコの匂い。他の住人?
しかし、引越し後2週間も経った頃から、ちょっとした異変が続くようになる。残業を終えて深夜に帰宅し、ドアを開けると室内からタバコの匂いがする。
彼女はそのときはまだ、両隣や上の階で、禁止されていても密かに誰かがタバコを吸っていて、匂いが配管など繋がっているところから流れ込んでくるのだろうと思った。大家にメールで、タバコの匂いについて報告すると、対処するとの返信があり、次の週には入り口の掲示板に注意書きがされた。
それからしばらく、タバコの匂いはなくなったため、彼女はやはりあれはどこかの部屋の住人がタバコを吸っていたのだろう、と納得した。
誰かがトイレを使った?
タバコの匂いはなくなったが、しばらくしてまた深夜に帰宅した彼女はトイレに入った。用を済ませて、昨日取り替えた手拭きのタオルを手にする。すると、タオルは朝の時点で1度使っただけ、ユニットバスは24時間換気で乾燥していて1日取り替えなければパリパリになってしまうのが本来であるにも関わらず、少し前に誰かが使ったかのように湿っていた。
タバコの匂いはまだ、外から流れ込んできたと思えたからよかったものの、タオルはこの部屋に誰かが侵入していなければ、湿っていることなどありえない。
女友達の部屋への避難は叶わず
ゾッとした彼女は部屋にいたくなくて、仲の良い女友達に連絡した。
「ちょっと怖いことあったんで、1人で部屋にいたくない。泊めてもらえないかな?」
『ごめん!本当は心から泊めてあげたいんだけど、、、話してなかったけど実は彼氏と暮らしてるんだよねー』
「えええ!!そうなの?今度、ちゃんと聞かせて!ごめんね突然!分かったよーまたね☆」
他にも、ダメ元で何人か、タクシーで数千円以内で行ける距離の女友達に連絡をしたが、夜中だったこともあり返信は来なかった。
万策尽きて途方に暮れていたら、タイミング良く……。
そこで、もっとお金はかかってしまうけれど、安全のためにと近くのビジネスホテルを検索した。ただ、金曜の夜だったこと、都心だったこと、深夜だったこともあり近場にはまるで空きがなかった。実家は新幹線で数時間かかる場所にあり、実家に頼ることもできない。
どうすればいいんだろう?
彼女は心から不安になり、まだ連絡していない頼れそうな誰かがいないか、何か似たような目に遭った人の知恵はないかと、自分の連絡先一覧と検索をいったりきたりしながら途方に暮れていた。
そのとき、先日タバコの匂いの件で連絡した大家のメールアドレスからメールが来た。開くと、タバコの件がきちんと解決しているかと、防犯のために夜の見回りをすることにした、と書いてあり、その下に「困ったことがあれば24時間いつでも連絡を」と、携帯の番号が書いてあった。
「これは天の助け!!」と、彼女はさっそく、記載してあったその番号に電話をかけた。2コールで大家が出た。ちょうど、アパートの裏の駐輪場を点検しているとのこと。タオルの話をすると「すぐに行きます!」と言ってくれて、数分もしないうちにインターホンが鳴った。
初めて対面する大家は予想外に若く親切で頼もしかった
鍵をもらうときや、これまでは不動産屋を介していており、さまざまな連絡もメールばかりだったため、彼女とアパートの大家が対面するのはこのときが初めてだった。
「あれ!もっと……。おじさんだと思ってました 笑 お若いんですね」
「あ、敷地も建物もオヤジのもので、僕は管理人してるだけだけど 笑 でも一応、いろいろ決めていいことになってるから自由にやらせてもらってます」
確認すると歳も近く、タバコのときもすぐに対処してくれたように、今回も『勘違いじゃないか?』なんてことは言わずに、
「タオルが濡れてた?気持ち悪いっすね!とりあえず今日は安心して眠れる場所を確保しましょう」と言って、どこかに電話をした。しばらくして、近くのビジネスホテルに空きがあったとのことで、そこに泊まることにした。
そのビジネスホテルは、彼女がネットで探して電話した時には空きがないと断られたところだった。若い大家曰く「まったく知らない女性が夜中に電話してきたら怪しんで断ることもある。ここのホテルはオーナーがオヤジと知り合いだから」とのこと。
若い大家の至れり尽くせりの対応に好感を抱く彼女
彼女はそんな大家の話に頼もしさを感じ、さっそく大家の車で連れていってもらい無事にチェックインをして一夜を明かした。チェックアウト時、ホテルからは宿泊費は大家から受け取ると言われ、払わずに済んだ。さらに、チェックアウトの時間には大家が車で迎えに来てくれていた。
「怖い思いをさせてすみませんでした。オヤジに聞いたら、(彼女の入居の)直前じゃないんですけど、あの部屋ヤバかったらしくて。リノベ前なんですけど。なのでもしかしたら心霊現象かなぁって」
それを聞いて彼女は納得した。さらに、大家は続けた。
「実は、駅の反対側になるんですけど、新築で何の問題もないアパートあるんで、そっちは家賃本当は高いんですけどこんなことがあったし、今の家賃と同額のままでいいので。今から観に行きます?そっちもタバコ禁止だし」
大家と付き合うことになった彼女
彼女は大喜びでその提案を受け入れ、翌日にはもう引っ越すことになった。引越し作業も大家が手伝ってくれ、さまざまな面倒な手続きも一緒にやってくれた。1年も経つ頃には、2人は恋人同士になっていた。
・・・お互いに歳が近く、恋人がいない同士だったので”彼女としては”自然の成り行きで好感を抱き、恋をして、彼から告白され付き合うことになった、と思っていた。少し冷静になると、その若い大家は顔は特に好みではなく背も彼女とあまり変わらず、見た目の魅力は低かった。
けれど「怖い目に遭ったときに、とても頼りになったし」と、いう既成事実があって、彼のことを「人として好きで尊敬している」状況だった。
タバコの匂いでふと……。
それからしばらくすると、大家は彼女の部屋に泊まりにくるようになった。恋人同士なので当たり前だ。関係を持つようになって2年目を迎えると、お互いに最初のときめきも遠慮もなくなってきていた。
その日は大家のほうが先に彼女の部屋に来ていて、彼女はまた残業で遅くなった。部屋の明かりがついていたので、彼女は「彼が来てるな」と分かった。そして、ドアを開けると……。
禁煙物件のはずの、しかも非喫煙の彼女の部屋から、あの覚えのあるタバコの匂いがした。独特の匂いだったので、それはかつての部屋に漂っていたあのタバコと同じ銘柄であることはほぼ確実だった。
彼女が部屋の中まで入らず、玄関で呆然と立ち尽くしているので、彼は「どうした?」と声を掛けた。彼女の顔に恐怖の色が浮かんでいることに気付いた彼は笑って言った。
「あ、気付いちゃった? 笑 まあ、もう付き合ってるんだしさ。それに、時効ってことで!」
-完-
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芦屋道顕の真夏の怪談