【真夏の怪談】後編:意地悪女と願いの叶う井戸
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夏の余興記事★真夏の怪談シリーズ
芦屋道顕の真夏の怪談
■願いの叶う井戸?
真正面に井戸が見えた。暗がりの中でも目の前に井戸があることは、はっきりと分かった。
「え?ここ?」
女は驚くと同時に、祖父母から聞かされていた昔語りを思い出した。この地域をほんの短い期間だけ治めていた武将が、怪しげな僧に心酔し言われるまま寺を建て井戸を掘らせ、戦の度に「贄」を投げ入れていたと言い伝えのある井戸だった。
「なんなの?ここって願いが叶うどころか、人がたくさん死んでるとこでしょ?どういうつもり?」
女は自分の取り巻きだったはずの集団に向かって叫んだ。しかし、返事がない。暗がりの中に数人、女と1mほど離れたところにいたはずが、周囲には誰もいない。
「・・・◯◯さん。私はここだよ」
「どこ?」
「ここだよ。私の願いがようやく叶うんだ。嬉しい」
その声は井戸の中から聞こえていた。女が井戸を覗き込むと、真っ暗な井戸の底から、見覚えのある少女がこちらを見上げていた。小学生時代に集団無視をして、不登校になりその後自殺した同級生だった。
女は悲鳴をあげて、全力で逃げた。小学校近くの店からここまで来るときは遠く思えたが、戻るとなると案外と近いようだった。数分もしないうちに、店のあった場所に戻ることができた。しかし、店は営業時間が過ぎていたのか、すでにシャッターが降りていた。
時計を見ると夫に迎えを頼んだ時間よりまだ1時間以上早かった。今電話をしても到着まで20分程度はかかる。一刻も早くここを離れたいと思った女は、タクシー乗り場から一台のタクシーに乗った。
数分ほどでタクシーはその町から離れ、