誰かが女を旧姓で呼んだ。
声の主の姿は見えなかったものの、「◯◯さん、こっち」と言うので、皆は少し早くに集まってどこかへ移動するつもりなのかと思い、店の外に出た。道の少し先に何人か、同い年と思われる女性達がいる。田舎で会場になった店以外はほとんど夜に空いている店もなく、街灯もまばらな暗がりで顔がよく分からないけれど、女は彼らが当時の取り巻き達だろうと思った。
「こっちにね、どんな願いも叶う井戸があるんだって。◯◯さんも来るでしょ?」
「△△ちゃんが来ないはずないって」
さらに、下の名前で女を呼ぶ声も聞こえてきて、女は彼らが当時の同級生だと確信した。ちょうどパワースポットブームの頃だったので、自分の故郷に願いの叶う井戸があるとは初耳だったものの、好奇心と「かつての取り巻きが皆行く場所に自分が行かないなんてありえない」との思いで彼らについて行くことにした。
街灯のまばらな暗い道を進む。いくら早歩きをしても彼らとは一定の距離がある。もっと歩調を合わせてほしいと思いつつ、かつてのボスだったプライドがそれを許さない。女はこの日のために買ったワンピーススーツに合わせて高いヒールのパンプスを履いていたので、そのせいで自分だけ、歩きにくいのかもしれない。暗くて彼らの足元はよく見えないけれど、きっともうみんなお洒落を諦めて楽な靴なのだろうと考えて納得することにした。
店を出てから、女の体感ではかなりの距離をかなりの時間をかけて暗がりを歩き、さすがに足が痛くてこれ以上は無理と思ったそのとき、
・・・後編に続く。
**. **. **. **. **. **. **.
夏の余興記事★真夏の怪談シリーズ
芦屋道顕の真夏の怪談
**. **. **. **. **. **. **.