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幽霊の経験談(3)光を拒み現世に留まり復讐を決意するまでの記憶
(1)(2)ではざっと、前世で幽霊となり彷徨った記憶を持つ女性が殺されて、あの世に行ける道であろう『光』が見えたものの、恨みによりこの世に執着したところ光が消え失せたところまでだった。
『・・・光が消えたとき、もし普通に幸せに寿命をまっとうしたり、病気や事故でやむおえない理由で死んだなら、天国への道が消えてしまったと怖くなったと思う。だけど、その女性だったときの私は、光が消えても自分がまだそこに立っていられたことにとても安堵した。あの世に無理やり連れて行かれず、この世に留まって復讐が果たせる、と思った』
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貴重な「幽霊だった」経験の話。今回はその続きじゃ。
■呼び鈴は鳴らせないけれど願ったら屋敷の中にいた
『復讐しなければ、気が済まない。復讐するために、夫と令嬢を見つけなければ。でも、肉体がなくなってしまったから、呼び鈴は鳴らせず、声も生きている人間には聞こえないようなので、誰かに頼むこともできない』
『だけど諦めるわけにはいかない。窓や使用人が使う裏口が開いてはいないか。私は屋敷の周囲をぐるりと回った』
『窓も通用口も開いていなかった。でも、諦められない。1階の窓を覗き込んだら厨房らしき部屋だった。さらに奥の部屋の灯りが見えた。やっぱり、人がいるんだ。令嬢かもしれない、夫かもしれない。あそこに行きたい。そう願ったら、気付いたら室内にいた。・・・なるほど、肉体がなくなってしまったから物理的に物をうごかすことは出来ないけれど、願うだけで移動できるのか。私はすぐにそう、自分がいる場所が屋敷の室内で、ついさっきまで窓の外から灯りを見ていた部屋だと悟った』
『ただ、空間移動には幽霊でも体力を使うみたいで、次に令嬢のいる部屋へ行きたいと願っても、何か体が重いような感じがして動けなかった。でも、室内を歩くことはできた。足はあった。靴を履いたまま埋められたのでその靴のままで、泥で汚れていた』
靴はモノなのに、死んだとき身に付けていたものは幽霊になったときそのまま履いていられるみたいじゃな。このあたりの幽霊を取り巻く不可解な事情は、あとで説明するぞよ。
■令嬢と夫が一つのベッドで寝ていたので
『願っても移動はできないけれど、歩けたのでお屋敷の中を歩き回って令嬢の部屋を探した。昔、別のお屋敷で下働きをしていたので間取りはなんとなく分かった。だいたいのお屋敷は造りは同じだから』
『二階に行くと一番奥の突き当たりの部屋の扉をすり抜けようとしたけれど、そこはどうしても通れなかった。扉が鉄か何か、金属でできていて金属は通過できないようだった』
『その隣の隣に、普通の木の扉があったので、そこを通り抜けてみた。中は私と夫が暮らしていたあばら屋が丸々入ってしまうくらいの広い部屋で、その真ん中に大きなベッドがあって、そこに男女が眠っていた』
『令嬢と夫だった。令嬢はガウンのようなものを着ているけれど、夫は少なくとも上半身は裸だった。とてつもない怒りがこみ上げてきた。私を殺して埋めたその同じ夜だというのに……。そう思った瞬間、どこかで赤ん坊の泣き声がした』
■赤ん坊は幽霊に気づいた
『泣き声が彼女にもやはり聞こえたらしく、令嬢が飛び起きた。夫は眠ったままだった。令嬢はガウンのまま、小走りで部屋を飛び出して隣の部屋に入っていった。私も付いて行った。大きな立派なゆりかごがあった。そばに子守らしい若い娘がいて、赤ん坊を抱いてあやしていた』
『それで、夫が私を捨てた理由をはっきりと理解した。令嬢との間に子供ができて、逆玉の輿に乗ったのだ』
『子守らしき娘は困惑気味に、なぜ泣き出したのか分からないと言ったと思う。でも、私には分かった。私のことを赤ん坊は察知したのだ。自分の両親に迫る邪悪な霊の存在を』
『私と夫の間には子供を授からなかったから、余計に悔しかった。だけど、赤ん坊の命を奪うのは筋違いだと、この世に恨みを抱いて残った私でもさすがに思うことができた。子守は貧しい家から奉公人だろう。私と似たような境遇だ。この2人に罪はないから、この2人には手出しはしないでおこうと思った』
『そして、もしかしたら令嬢は夫が結婚しているとは知らなかったのかもしれない、令嬢にも罪はないのかもしれないと思った。残るは夫だけだ。でも、そのとき令嬢が何か、とても酷い言葉を口にした。もうよくは覚えていないけれど、子守の娘に、何もしないのに夜中に泣き出すなんて。夜泣きの時期は終わったのに。何かしたんでしょう?などと一方的に責めた。子守は泣いて、奥様申し訳ありません、と謝り続けた』
『そして、令嬢は捨て台詞のように、うちの子に何かあったら、あなたの責任だから。あなたがもう、どこへ行っても働けないようにしてやる。この街ではもちろん、どこへ行ってもね、などと言ったと思う。子守はただただ泣いていた。それを見て、令嬢を見逃す気持ちはやはりなくなった』
『最初はものは動かせなかったけれど、意識を集中すると少しは動かせることが分かってきた。そして、見える人には姿を見せることも。残念なことに夫にも令嬢にも霊感がなかった。だけど、厨房にいた料理人や使用人の何人かには私の姿が見えた』
続く。
★幽霊経験者による霊の豆知識
『死んだ後で、死んだときの姿で現れ続けるのはあの世に行っていない、日本で言えば成仏していない霊。恨みや未練でこの世に留まっているから、この世にいたときの姿、最期の時の姿のままで霊の記憶も留まっていて、特に殺されたり不慮の事故で無念だったりした場合は、そのときの姿をあえて見せようとすることもある。
若い頃の姿や、好きな容姿、誰かのところに誰かが自分を思い出しやすい姿で現れる霊は、いったん成仏や天国へ行くと言われる段階を経て、あの世の幽界と言われるような、何でも想いが叶う領域からこの世に一時的に降りてきている』
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