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破壊された『おいなりさん』本当に怖いのは…?【現代の呪(しゅ)】
※旧メディアVeryGoodからの移行記事です。古い日付や内容、リンク切れやレイアウト乱れ等ご了承ください。2015.05.02 【幻の陰陽師・芦屋道顕】破壊された『おいなりさん』本当に怖いのは…?【現代の呪(しゅ)】https://www.verygood.la/56037/
とある日、わしは怒りと悲しみを感じずにはいられぬニュースを目にした。
おぬしらの中にも知っておる者もおるじゃろう。
福岡県福岡市内にある警固神社の境内にあったおいなりさんが、何者かによって破壊されたという事件じゃ。
警固神社の境内にある今益稲荷神社には表情豊かな4体のおいなりさんがいらっしゃっる。
今回の事件でいずれも首が折られてしまっており、見るも無残な姿となってしまったそうじゃ。
警固神社の宮司殿もおっしゃっていたが、おいなりさんを破壊するなんてことはとても恐ろしい行為じゃ。
地元の者も「バチがあたるのでは」と心配しておる。
その心配はもっともなのじゃ。
なぜなら、稲荷神社は特に「祟り」の噂が絶えないからのう。
そもそも、『おいなりさん』とは?
全国各地にある稲荷神社の総本社は京都にある伏見稲荷大社じゃ。
商売繁盛や五穀豊穣の神様として信仰されておる。
赤い鳥居が幾重にも連なっている様や神使である狐が印象的じゃな。
稲荷神は農業の神様なのじゃが、狐が米や麦を食い荒らすネズミを捕まえたり、狐の尻尾が実った稲穂に似ているということから狐を神使にしたと言われておる。
この神使の狐をわしらは「おいなりさん」と呼んでおるのじゃ。
じゃがな、稲荷神にはまた別の逸話がある。
真言宗の開祖として知られる弘法大師(空海)が貴族らの求めにより金銭に関わる呪詛を行う際に、荼枳尼天(だきにてん・インドの女神ダーキニーのこと)を勧請したのじゃ。
荼枳尼天は白狐に乗る天女の姿をしておるのじゃが、これにより狐を使いとする日本古来の稲荷神とインドの女神の荼枳尼天が同一視されるようになり、真言宗の全国布教とともに荼枳尼天の概念まで含んでしまった稲荷信仰が広まっていったと言われておる。
荼枳尼天は祟り神
実はな、この荼枳尼天が祟り神と言われておるのじゃ。
荼枳尼天は稲荷神と同様に豊穣を司る女神じゃったが、性や愛欲を司る神となり、人の肉を食らう夜叉へと変わっていった。
また、荼枳尼天は人の魂を食う代わりに人の欲望を叶えると言われておる。
相手に災いが起こるように祈る呪詛のために利用されたのじゃ。
日本古来の稲荷神であれば、人間の善の心や感謝の心で格が上がっていくのじゃが、荼枳尼天が正体の稲荷神じゃと人間の負の心、恨みつらみや欲望、金銭などを糧とする。
人間の魂と引き換えに人間の欲望を叶えるのじゃが、確かに人間にしてみれば願いが叶い、ご利益があったように見える。
人間というものはなんとも身勝手なもので、願いが叶ってしまえば神様のご利益なんて忘れてしまい、崇敬の念も薄れてしまう。
そうなってしまうと、人間に見返りを求めるこの神は、全てを無にしてしまうような仕返しをしたり、末代まで祟ると言われておるのじゃ。
じゃからわしも、神への崇敬の念の欠片もないこのような事件の犯人にバチがあたるのではないかという皆の心配がよくわかるのじゃ。
<終わりに>
すべての稲荷神が祟り神だと言うておるのではないぞ。
神社仏閣など、いわゆる神様や仏様がいる場所やそれに関わるものを傷つけたり壊したりといった行為は、決して許されることではない。
ご利益があるから参拝するのではなく、祟られるから恐れるのではなく、目に見えぬ崇高な存在のものを敬い、礼節をわきまえることが大事なのじゃ。
わしがこの記事を書いている今、まだ犯人は捕まっておらぬ。
犯人にはきちんと罪を償ってほしいものじゃ。