(4)綺麗な着物を着せられて。生贄の記憶の話:離婚で夫一族の因縁から逃げ延びようと【ブラザー辛】

(4)綺麗な着物を着せられて。生贄の記憶の話:離婚で夫一族の因縁から逃げ延びようと【ブラザー辛】

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生贄

義母は一気に話し終えると、コーヒーを飲んで気を落ち着かせた。Aさんは尋ねた。

「それを防ぐ方法はないんですか?普通に、普通の親子として仲良く、姉妹として仲良く……。」

義母は首を横に振った。

「ないわ。残念だけど、本人か、家族か、誰かが犠牲になるの」

「ああ、でも安心して。Aさん、あなたはお嫁さんに来てくれたけど一族の人間じゃないし、うちの一族のことあんまり好きじゃないでしょう?これまでも、お嫁さんが犠牲になったことはないわ。生贄の生まれ変わりの子に殺された母親は、みんなうちの一族の女。だから、あなたの家から犠牲が出るなら、うちの息子か、長女の◯ちゃんか……。」

義母はさらに続けた。

「でも、かつてうちの一族の名古屋の方に暮らしてた一家が車の事故で家族全員亡くなったときは、一族の人間じゃないお嫁さんも一緒に亡くなったわね。そういうのも気を付けなきゃだわね。あとは、これが効くかは分からないけど」

義母はそこまで話すと、席を立って仏様の祀ってある祭壇の前に座って手を合わせた。

「この仏様に守っていただくのがいいわ。このお店は家から少し遠いけど、何も飛行機や電車で何時間かかるわけじゃない。毎日は無理でも週に何回とか、とにかくお祈りしにきて、でもただ守ってくださいじゃなくて……。Aさんはうちの一族の人間じゃないから理不尽に思えるかもしれないけど『一族の罪をお許しください』と心から謝るの」

「私はね。話を母から聞かされてから、毎週のようにこの喫茶店に来て、学生時代はアルバイトもさせてもらいながら、毎日この仏様にお祈りしたの。それで、私は姉に殺されずに済んだし、息子は妹に殺されずに済んだの」

「お義母さま、お姉様がいらしたんですか?あと、◯◯さん(Aさんの夫)には妹さんが?」

「そう。私達親子はね、なんとか生き延びたのよ。この仏様に守っていただいて。でも、それだけじゃなくて、毎日、いろんなことに気を付けてきたの。とても大変だったけど、私達にできたことだから、Aさん、あなたにもできるわよね?」

Aさんの頭の中には「離婚」の文字が浮かんでいた。夫のことは愛していて、長女のことも愛していた。ただ、次女についてはもう、怖くて仕方なくなってしまい、このままでは愛せそうもない。夫のことは愛していたけれど、こんな重要な秘密を黙っていたことでもう信用できなくなってしまった。そして、この、恐ろしい家系の因縁を、血の繋がっていないA子さんに「嫁だから」ということで当たり前のように背負うことを迫る義母がもう、怖くて仕方なかった。

離婚すれば、全てから逃げられる……。でも、そんなことを口にしたら、離婚手段を封じられる、とAさんは思った。ここからは、用意周到に進めなければ。

そこで、Aさんは義母に言われたように、仏様の祭壇に手を合わせ祈った。

(私達をお守りください。ただ、申し訳ありません。私は夫の一族の因縁を背負えるほど強くはありません。夫とは離婚します。薄情ですが、因縁のない長女を連れて逃げます。次女は、もう私の手には負えません。どうか、うまく離婚が成立し長女と新天地で無事、新生活が送れますように)

それから顔を上げて仏様の顔を見ると、元々微笑むような表情ではあるけれど、Aさんは仏様が明らかに「聞き入れた」とでも言うように、しっかりと微笑んでいるように思え、不思議な温かい空気に包まれたそうだ。

そこからAさんは義母にも夫にも気付かれないよう離婚を進めるため、そして長女を守るためには「あらゆる嘘も方便」と心に決めて、できることは全てやっていった。結婚前の貯金を全て下ろし、学資保険やあらゆる保険を解約して、今の住まいから遠く離れた都会にある、大学附属小学校に転校させた。近くの親族に土下座して頼み込み、離婚が成立して一緒に住めるようになるまで、預かってもらうことにした。長女には大学受験をしなくてすむメリットや都会でおしゃれができる、雑誌モデルみたいになれる、都会だと芸能人にも会えるなど、田舎の小学生の女の子が心惹かれそうなことはなんでも伝えてその気にさせた。

夫には「長女の心からの希望だから叶えてあげたい。それに、長女はこの地元の学校でいじめに遭っているから早く環境を変えてあげたかった。あなたは忙しいから相談する暇がなかった!」と、嘘に嘘を重ねた説明をして、なおかつ(これが原因で、夫のほうから離婚を言い出してくれないかな?)などと期待した。これだけでは離婚には至らなかったものの、それまで何の問題もなかった夫との間には大きな溝ができた。

でも、問題はやはり次女だった。長女が家からいなくなると、それまでも恐ろしい目でAさんを見つめることが多い子だったけれど、さらに家にいるときはAさんの一挙手一投足を監視するように、付き纏い、じっと見つめるようになった。

Aさんは「都会の学校に通う長女の学費のため」として、それは実際の理由でもあったけれど、昼と夜、両方働きに出ることにした。地元から少し離れた街の、あえて1ヶ月の休みが少なく、週6日出勤をすることも多い仕事を選んだ。さらに、その街の繁華街の夜の飲み屋でも、多い日で週6日働くことにした。さまざまな事情の既婚女性、子供のいる女性が働いているその店から、夜間保育園を紹介してもらえ、次女は昼間は昼間の保育園、夜は夜間保育園に預けることができるようになった。たまの土日は夫と次女と過ごさず、都会にいる長女に会いにビジネスホテルなど予約して、平日に地元に戻ってくる……。

そんな生活を続ける中で、当然、夫との仲は拗れに拗れていった。義母も、Aさんの様子がおかしいことに気付いて連絡を取ろうとしてきたけれど、電話やメールは拒否し、地元では義母を避けるように行動して、なんとか顔を合わせないまま月日が過ぎた。

ついに、夫の会社で、Aさんが夜の店で働いている、DVで生活費を渡していないからだ、長女が別の場所で暮らしているのは暴力を振るうからだ、さらにはAさんがギャンブルで借金を背負っている、浮気相手がいるなどの噂が流れるようになり、夫はAさんの不可解な行動に嫌気がさして離婚を申し出た。Aさんに全面的に非があるということで慰謝料や養育費は取れなかったものの、とにかく「夫の気が変わらないうちに」と、離婚届にサインをして、あっという間に荷造りを終えて夜逃げするように、長女のいる都会へ転居した。

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転居先を夫や義母に知られないよう、田舎の街でさまざまな噂が囁かれたのを利用して「実はDVが真実なんです。もう、絶対に会いたくないので転居先の情報や連絡先が元夫と義理家族に知られないようにしてください」とあらゆる方面に頼み込んで、一切の連絡を断つ形でめでたく新生活を始めることができた。

・・・その後、数年経って長女はもう中学に進み、Aさんも長女も無事だ。ただ、

「少し前に、気になるニュースを知ってしまった」とのこと。

続く。

※2024年、芦屋道顕が大学卒業、実家の家業を継ぐことになり忙しくなったため今後は辛口オネエの愛弟子・ブラザー辛が怖い話を担当します。

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