幽霊の経験談(5)【芦屋道顕】復讐後に彷徨った200年の話【怨霊の行方】

幽霊の経験談(5)【芦屋道顕】復讐後に彷徨った200年の話【怨霊の行方】

『何もすることがない退屈な時間は永遠のようで耐え難かった。やがて、屋敷は取り壊しが始まった。工事の人々がひっきりなしにやってくる。寂しさと退屈を紛らわすために彼らに近づいてみた。ただ、誰も霊感がないようで、気付かれることはなかった。ものを動かせば気付くかもしれない。解体工事中に窓ガラスをガタガタ揺すってみたり、壁にかけてある絵を落としてみたり、できることはやってみた。けれど、皆「工事中の振動だろう」とでも思うのか、誰も気に留めなかった』

『解体工事が終わって更地になると、そのあとには何か大型の機械類、今の時代のショベルカーや、建設資材の鉄骨のようなものが大量に持ち込まれて置き去りにされた。ショベルカーを初めて見た当時は、それがいったい何なのか分からなかった。そういえば、牛や馬が引く荷車や馬車をずいぶん前から見なくなっていた。代わりに、トラックが現れていた。もう、時間の流れがどれくらいなのか、私が死んでからどれくらい経ったのか分からなくなっていた』

『屋敷の跡地が資材置き場になると、あとはほとんど人は来なかった。来ても私は遠くから眺めているだけで、特に自分の存在を知ってもらいたいとも思わなかった』

『それからまた、だいぶ時が経って資材置き場だった場所は工場か何かになるらしく、また工事の人達がたくさんやってきた。その中に、なんだか懐かしい顔が見つかった。あれは、私の夫じゃなかったか』

『自分がこの場所にずっといる理由ももはや忘れ果てていて、でも、確か誰かに逢いたくてここに来たんだ、と、あの悲しい事件のことは忘れて、夫を連れ戻しにきたことだけが記憶に残っていた。私はその夫に似た男性に話しかけた。もちろん、声は聞こえなかったし姿は見えなかったけれど、その男性は少しだけ霊感があって、身体が重くなったようだった。具合が悪いからと、仲間に断りを入れて帰宅することにしたようだった。彼が車に乗り込んだので、私も乗り込もうとした。だけど車は金属で出来ていて、中には入れなかったので、車の後をついていった』

『車の後について道を走る間、不思議なものを目にした。泥だらけだった道は平坦になり、道沿いには街灯が並んでいた。(転生した現代の)私なら、電灯だと分かるけれど、当時の私にはまるで魔法に思えた』

ライト

『車はある大きな屋敷の前に止まった。私はあの事件を思い出した。けれど、記憶があまりにも曖昧になっているので、目の前の男が夫ではないことも、その建物があの屋敷ではないことも分からなくなっていた。とにかく、憎しみと悲しみだけがこみあげてきた。(そうだ、この扉の向こうには豪華な広間が、二階の広く美しい寝室には憎らしい女と赤ん坊がいるんだ)そう思い出しながら、男のあとをついて屋敷らしき建物に入った』

『ところが、扉の向こうは広間ではなくすぐに狭苦しい階段があった。男は階段を登り、二階の狭い廊下の突き当たりにある粗末な木の扉を鍵を使って開けた。中は、とても狭かった。それでも、私は部屋の中をぐるりと見渡して、女と赤ん坊の姿を探した。この部屋には男しか住んでいないようだった』

『夫は今はここに一人で暮らしているのか?と、男と夫を混同したままの私は不思議に思った。女は外出中で、やがて帰ってくるかもしれない。そう思って、私はそこに留まった。男は具合の悪さを感じたほかは、私の存在には気付かなかった』

『翌日になると、男はまた仕事に出掛けた。私もまたついていった。そして日が暮れるまで肉体労働をして、男はまた夜になると外観だけ屋敷のように大きな建物の、狭苦しく粗末な部屋に帰ってくる。それがずっと続いた』

『私はなんとなく、もうこの男が夫ではないことに気付いていた。そして、この男には妻子はおろか、恋人もおらず一人きりでただ肉体労働をして、安い賃金で住める集合住宅に寝に帰るだけの生活をしていることにも気付いた。それでも、もうどこかへ行く気力も何もなかった私はその男と日々を共にした』

『いつしか、男はすっかり歳を取っていた。肉体労働で足腰を痛めて、仕事にも行かなくなりわずかな蓄えを切り崩して酒を飲みに行き、酔っ払って帰るばかりの日々が続いた。呑み屋に置いてあった新聞の発行日を見た気がする。日付までは覚えていないし、当時はそれが新聞というものだとは分からなかったけれど、殺された頃から200年は経っていたように思う。ある朝、気付くと男がじっと私を見つめていた。あれ、この男は私が見えないはずなのに、どうしたのだろう?』

続きは次のページにて

関連記事

幽霊の経験談(4)【芦屋道顕】復讐を果たすまでの話【怨霊の行方】...

幽霊の経験談(3)【芦屋道顕】光を拒み現世に留まり復讐を決意するまでの...

幽霊の経験談(2)【芦屋道顕】自分が死んだと自覚したとき起きた出来事の...

幽霊の経験談(1)【芦屋道顕】『今の自分になる前、200年彷徨った』あ...

ABOUTこの記事をかいた人

『辛口オネエの開運占い』メンバー、辛口オネエ・芦屋道顕・久賀原鷹彦(Ku)の3名の共同アカウント。【免責事項】開運占い軍団の記事はオカルト・スピリチュアルに興味がある方向けのエンターテイメント目的としております。記事に掲載されている情報を利用することで発生したトラブルや損失、損害に対して、当方は一切責任を負いません。予めご了承ください。