【真夏の怪談】「誰でもいいから助けて」「・・・助けてやろうか」【芦屋道顕】

【真夏の怪談】「誰でもいいから助けて」「・・・助けてやろうか」【芦屋道顕】

やはり男は深く後悔していたであろう。事故から一年経って、彼女は未だに命があるが、それは肉体だけのこと。中身はあの夜すでに身体を抜け出していた。彼女はもはや、病院の中でしか暮らせない、しかも人としてではなく「言葉の通じない、謎の生き物」になり果てていた。

森の声の主は、こうなるとわかっていたのであろう。森の声の主が神かと聞かれて応えなかったのは、その真逆の存在だったから。もし、男が神仏や己の守護者たちのみに祈ったならば、恐らく誰かは聞きつけていただろう。しかし、そうはならなかった。

実は、男があの夜迂闊にも助けを乞うてしまったのは、あの事故の起きたあたりでこれまで何度も、理不尽にも命を断たれたものの魂であった。怨霊化したそやつが彷徨っていて、生者を憎み仇を成せるときを楽しみにしているのだった。

さて、この話でもっとも口惜しいのは、助手席のエアバッグが作動しなかったことであるな。神仏に祈る習慣をつけるのもよいが、夏のドライブ前には車のセーフティー機能まできちんと点検しておきたいものじゃ。

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