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芦屋道顕の真夏の怪談
■田舎に移り住んだ老夫婦
その夫婦は連れ添って早何十年、子供たちはすでに独立してそれぞれに所帯を持ち、夫婦は夫の定年に合わせてそれまでの都会の家を売り、とある田舎の村に移住したそうじゃ。
夫婦はそこで、昔から二人の夢であった畑を耕すことを楽しみ、同じように都会から移住してきたリタイア組でコミュニティを形成し、理想的な暮らしを楽しんでいた。
しかし、その夫婦のみならず移住組の老夫婦達は皆、元々の村人達からは歓迎されていなかった。趣味で始めた畑も無農薬野菜や果物を育てようとしていたところ、元々の農家の組合から「あんたのところで虫が発生したらどうしてくれる。無農薬なんて冗談じゃない。組合から指定の農薬を買って使わないと、あんたのところはエライ目に遭うよ」などと脅されたりもしたそうじゃ。
その話を移住組の集まりで話すと、先輩移住者たちもやはり歓迎はされず、畑を作ろうとしていたほかの夫婦も脅しを受けて断念したとのことだった。
しかし、移住してきたばかりのその夫婦は、田舎の人たちとは話が合わないから無理して仲良くすることはない、脅しに屈することはないと、無農薬の作物を作り始めた。その後は、特に虫も発生せず、村人からの嫌がらせもなく、平穏な暮らしを送っていた。
■黒い肥料
3月に定年退職し、4月にその村に移住し最初の夏は問題なく越した夫婦だったが、