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幽霊の経験談(1)『今の自分になる前、200年彷徨った』ある女の話
■幽霊話は生きている人間が見たり聞いたりした話がほとんどであるが
古今東西でさまざまな幽霊話はあるが、どれも生きた人間が幽霊を目撃した話、取り憑かれた話ばかりで幽霊の主観的な話はあまり聞いたことがない。
幽霊の話を聞ける機会には霊媒を通じてなどもあるが、霊媒がわざわざ自らの身体に霊をおろす場合は、幽霊の遺族やら幽霊が取り憑いている建物の所有者らが幽霊と話をしたいからであり、幽霊の境遇を詳しく聞き出そうなど思いもしなかったであろう。
幽霊側も家族へのメッセージやら、不本意に死んだ恨み言やらを伝えて満足すれば、それ以上無駄話をすることなく成仏するか、また他を彷徨いに行ってしまう。
■幽霊自身は幽霊でいる間、何を感じどう過ごしているのか?
しかし、例えば1800年に死んだ女性の幽霊が2000年にもまだ存在していたとして、その200年の間、その女性の幽霊はいったいどのように存在していたのか?
例えば、自殺者の霊は自殺現場に留まり永遠に自殺を繰り返し二度と生まれ変われないなどと言われているが、実はそれは自殺を防止するための方便であったと昨今は分かってきた。自殺者の霊も動き回ることがあり、さらには生まれ変わることもあるようじゃ。
自殺ではなく自然死や事故死、他殺などの場合は己の遺体の在処を家族や近くを通る人に知らせるために、離れた場所に霊が現れる話はかなりよく聞く。他殺の場合など犯人が遠くに逃げても夜な夜な現れることもあるしのう。
ということは、やはり幽霊は幽霊になっても姿形を持ち、意思を持って活動しているわけじゃ。死んだことに気付かず普通に生活をしている幽霊もいることは昔語りにもよく出てくる。妖怪や魔物のいる世界に迷い込み、あるいは引き込まれてそこで居つく霊もいるという。
死後、成仏せずこの世に留まる霊を呼び出して話を聞ければとは思うが、それには多大な危険が伴う。しかし、そのようなことをせずとも、幽霊「だった」本人から話を聞くことができたのじゃ。
幽霊だった記憶を持つ女性の話
ということで、『今の自分に生まれる前、幽霊として200年ほど彷徨っていた前世記憶』を持つ女性の話じゃ。彼女はまだ10代後半の学生で、物心ついて以来ずっと、今の自分や親や生活に実感が伴わず、学校ではおかしな子扱いをされ引きこもることになった。さらには周囲からは心療内科にも行けと言われたが、彼女の親が考え方が柔軟な人達で、現代医学での病名がついて精神的な病があると認定されてしまうと将来に関わるのではと考え※ほかの解決法を探る中で非常に変わった前世記憶が出てきたのじゃ。
※しかし、ここでは精神医学を否定するものではないことを明言しておくぞよ。さまざまな不可解な現象は憑依やこのような前世を疑い、怪しげな心霊治療を巡るほうが遥かに危険であるゆえ、なんぞのときはやはりまず現代医学の世話になることが肝要じゃ。
女性曰く、
■前世で殺された記憶
『一番古い記憶では、幼稚園の遠足で芋掘りに行ったとき。ショベルで芋が埋まってる畝の土を掘り返していたら、なんだか急に怖くなって泣いてしまった。土の中に、人が埋まっているような気がしたから。その日の夜から、怖い夢をたびたび見るようになった』
『夢の中で私は大人の女性で、どこかのお屋敷の裏手で、泣きながら男の人に命乞いをしている。男はたぶん、自分の夫。何度か夢を見るうちに、どうやらその夢の中の女の人は貧しい家の生まれで、同じく貧しい家の出身の夫と結婚して慎ましく暮らしていた。でも、あるとき夫が資産家の令嬢と恋をして、私のことが邪魔になった』
『別れてくれと言われて、別れれば良かったんだけど、夫のことを愛していたしその時代、貧しい家の出身の女で、手に職もない女が離婚して一人で生きていくのは無理だったから、必死で夫を引き止めた。絶対に離婚しないと言い張った』
『ある夜、夫が帰って来なかったので、突き止めてあった相手の令嬢のお屋敷へ行ってみた。呼び鈴を鳴らしても誰も出て来ないので夫の名前を叫んだ。何度もなんども……。しばらくして、お屋敷の正面玄関から夫が出てきた。とても怖い顔をしていた。私は髪を掴まれて引きずられるようにして屋敷の裏に連れていかれた』
『夫に何か罵倒され、殴られた。何を言われたかは覚えていない。殴られ続け、このままでは死んでしまうと思った。助けて、と懇願したと思う。だけどもう、声が出なかった』
『まだ、かろうじて意識はあったけれど動けなくなったので、夫は私が死んだと思ったのだろう。屋敷に誰かを呼びに行った。屋敷の使用人らしき男性と夫はぐったりしている私を屋敷の裏にある林に運んだ』
『生きていた、と思える記憶の最後は大きなショベルか何かで穴を掘る音と、湿った土の匂い。林の中に掘った穴に、私は投げ込まれた。助けて、まだ生きてる……。でも声は出なかった。目も開かなかった。体の上にどんどん土が投げ込まれて、息ができない、苦しいと感じた』
『これで私は死ぬんだ、と悲しくて悔しくてしかたなかった。夫が憎い、夫を奪った令嬢が憎い』
『天国を信じていなかったから、意識がなくなったら完全に無になるのだと思っていた。だけど、いつまでたっても意識がなくならない。そして、気付くと息苦しさも、殴られた体の痛みも感じなくなっていた。どうしたんだろう?と思ったら、林の土の中に埋められていたはずの自分は、なぜか令嬢の屋敷の正面玄関の前に立っていた。自分でも、なぜなのか分からなかった』
続く。
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