家族が暮らす町へ向かう見慣れた景色に少し落ち着いてきた女は、夫に電話をしてタクシーで帰るから迎えに来なくていいこと、そして自分に起きた恐ろしい出来事を話した。ただ、自分がかつて虐めをしていたことは隠して話した。
「・・・うん。本当だって。え?からかわれた?あぁ、なるほどね。うんうん。落ち着いたらムカついてきた。あいつらが私を騙したってことだよね」
女の夫は霊的なことは一切信じないタイプで「同級生がグルになって、彼女を騙すために芝居をした」という仮説を立て、女もそう思うことにした。電話を切って、しばらくすると自分の住む町の駅が見えてきた。
「あ、ここでいいです」
女は、駅前のロータリーでタクシーを降りることにした。運転手は女に釣り銭を渡したあと、車を降りようとする女にどうしてもこれだけは言いたい、といった口調で、
「あの、先程のお電話の内容が聞こえてしまって……。盗み聞きしたみたいで恐縮ですが、あの、僕はけっこう幽霊とか信じるほうで、お節介ですが……。電話で話されてた◯◯町の◯◯というお店はけっこう前に潰れてるはずなんですよ。その、怖がらせてほんとに申し訳ないんですけど、今お電話されてたことがぜんぶ本当だったら、お祓いとか受けられたほうがいいんじゃないかなと。いや、本当に余計なお世話ですみません」
と早口で伝えると、すぐにドアを閉めて走り去っていった。
「はぁ?なんなのあの運転手。本当に余計なお世話。人の電話を逐一聞いて、◯◯がもう潰れてるとか、嘘つきやがって」
女は、夫との電話ですっかり「元同級生達のタチの悪いいたずらだった」と決め込んでしまったので、運転手の言葉には腹を立てるばかりだった。
家路に着いても怒りはおさまらず、夜遅かったものの女は自分を騙したと思われるかつての同級生に詰問することを思い立った。ただ、その夜は誰とも直接話しをしておらず、現在の連絡先も知らない。そこで、片っ端から彼らのフルネームで検索をして、SNSで見つけた1人にとりあえずメッセージを送った。彼女は夜更けでも起きていたらしく、すぐに返信があった。そこにはこんなことが書かれていた。
「◯◯ちゃん、久しぶり。まず、誤解を解きたいんだけど・・・同窓会、私はハガキ来なかったよ。来ても行かなかったと思う。★★さん(自殺した同級生)のことがあるから、正直なところ怖くてもう、あの町には行きたくない。実は・・・(悲惨な事情)でそれどころじゃないし。あと、余計に怖がらせるかもしれないけど、ほかに仲良かった△△と▲▲も・・・(悲惨な事情)で同窓会どころじゃないはずだよ。ちなみに、会場の◯◯◯って店、同級生の●●の実家のはずだけど確かにかなり前に潰れてるはずだよ」
その返信を読んで女はさすがに怖くなり、