それを絵画で隠す」のは、変な噂がたって人が来なくなるのを阻止するための、宿側の鉄板の対策なのじゃ。
そこに泊まったのは当時付き合い始めたばかりの彼女とで、欲望に目が眩んでいたことと彼女が予約してくれたことから、その部屋に泊まった翌朝まで恥ずかしながら曰く付きの部屋だとは気付けなかったのじゃ。
気付いたのは、非常におどろおどろしい悪夢、起きてもはっきりと覚えている悪夢を見たこと、当時の彼女もまったく同じ夢をその晩に見ていたからじゃ。夢の中でわしらはお互いに罵り合い、最終的にわしが彼女の首をしめて殺し、その後、近くの山に分け入り首を吊るという恐ろしい夢であった。
まだ、彼女とは付き合い始めで何一つお互いに不満がなかった頃ゆえ、潜在意識が夢に表れたわけではない。なおかつこういった霊的な夢ははっきりと「己の内側ではなく、外からやってきたもの」と分かるものなのじゃ。
朝起きて二人で怖い夢を見たと話し、これは何かある、と部屋をぐるりと見渡し……。ベッドのヘッドレスト側の壁に飾ってある、洋風の室内に似つかわしくないがその地域の観光名所である神社を描いた風景画をそっと外してみると、案の定、魔封じの札が貼ってあったのじゃ。
幸いわしらは一泊であったゆえチェックアウト時刻を待たずすぐに出て、憑依の気配もなかったので念のためその地の神社にご挨拶と守護を願うて無事に過ごせた。
しかし、このような怨恨により命を断たれた者の念、特に事件が起きてからまだ歳月が経過していない場合は比較的強く残り、生者に干渉することがある。
わしらはまだお互いに悪念を抱いていなかったゆえセーフであったが、このような部屋に仲の悪い男女がもし別れ話をするために泊まったならば、何が起きたやら、恐ろしいことじゃ。
さて、★5の話は最怖話としてあとで触れるゆえ、宿屋についてはいったんここで終わりにしておくぞよ。
次回も行楽シーズンの鉄板観光地についてじゃ!
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