どんなに料理が美味しい店でも、メニューの写真と説明を読んで気になり始めた途端に、店員が「これ、美味しいんです!一番人気です!今お持ちしますね。はい、こちらです!さあ、お食べになってください!さあ、さあ早く!」と、頼んでいないうちから料理を差し出して急かされたら?
確かにその料理が気になっていたかもしれないけれど、なんだか少し、がっかりしないだろうか。
その料理が気になるから、自ら店員に説明を聞いて、それを考慮して「自分の意思で」それを選ぶ楽しみが、店員の行動で奪われてしまった。
自分のペースで食べたいのに、いきなりメインディッシュを出され、しかも早く食べろと催促されてしまった。慌てて食べるにしても、実はまだそこまでお腹が空いていない。食前酒を飲み、前菜をつまんで、「食欲が刺激されたところで、頼みたかったのに。なんてことをしてくれるんだ!これじゃあ、せっかくのディナーが台無しだよ!」とでも、叫びたくなる。
料理そのものの価値も美味しさも変化はしていないはずなのに、そんなふうにして、喜びが減ってしまうどころか、怒りに変わることすらある。
男にとって、初対面の相手が好みの女性で、たとえ恋人どころか結婚すら考えてもいいかもしれない相手だったとしても、それを少し態度に出すくらいなら歓迎するけれど「あなたが好き!付き合ってください」と言われることは、まだ頼んでいない料理を、まだ食べるタイミングではないときに差し出されるのと同じなのだ。