【真夏の怪談】前編:意地悪女と願いの叶う井戸
梅雨が明けたと思うたら台風襲来で晴れはなかなか続かぬが、蒸し暑さは増す一方じゃの。熱帯夜にはガリガリ君ソーダ味でもかじりながら怪談話を読んで涼しくなるのはいかがかのう?
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芦屋道顕の真夏の怪談
■曰く付きの古井戸
その井戸は、戦国時代に地域を支配した武将が戦勝祈願で建立した寺の敷地に掘られたものであったという。だが、当初から枯れ井戸であり恐ろしく深く掘られていたことから、妙な噂がまことしやかに囁かれていた。
それは、武将と僧侶が戦勝を祈願するために禍々しい呪術を行い、そのための生贄を放り込むための井戸であると。
しかし長き時を経て武将の一族は死に絶え、寺は継ぐ者もなく荒れ果てていった。後に役人がやってきて台帳を作った際には持ち主不明の土地として国有地とされたが、それでも管理する者はなかった。
その村では行方不明者が出ることが何度かあり、井戸に身投げをしたのではとの噂もあったが、誰も確認する者はいなかった。ほかにも、不吉な噂が絶えなかったが村の中心地からは外れた場所にあり、近付かなければ実害はなかったためにその井戸はそのまま放置され続けた。
■同級生を病ませ死に追いやった女
さらに時は流れ、二度の大戦を経て日本が復興し高度経済成長期を迎えた頃のことじゃ。その井戸のある村も周辺も町として開発され人口も増えた。小学校や中学校も増えた。町には子供達の笑顔が溢れていたが、しかしある学校では陰湿な虐めが行われていた。
40人いるクラスで、一人の女子を皆で無視をしていた。その虐めの首謀者はもともとそのクラスのボス的な存在であったが、自分が好きな男子がその女子を褒めたから、というだけでその女子を「みんなで無視しよう」と取り巻きに言い含めた。
新学年となり、クラス換えがあって首謀者とは別のクラスとなったが、首謀者はその女子と同じクラスの女子を呼び出し取り巻きと共にその女子の根も葉もない悪い噂を吹き込み、無視させるように仕向けた。男子も巻き込み、もはや誰も彼女の味方をする者はいなかった。
クラス換えによって孤独から解放されると一縷の望みを抱いていた女子は、その甲斐もなく学年中から無視をされて絶望し、心を病んでいった。やがて不登校となり、10代の終わりには自殺をしてしまった。
遺書には虐めの首謀者だった女子の名と怨念に満ちた言葉が書き連ねられていたが、すでに卒業後であったことから学校時代の虐めとの因果関係が問われることもなかった。町では少しばかり噂になったが、皆が共犯のようなものでその話は静かに葬り去られてしまった。
虐めの首謀者だった女は自分がしたことなどすっかり忘れ、やがて町を出て結婚し子供が生まれた。会社でも母親グループでも、常に気に入らない誰かを排除することを繰り返し、本人は常に安泰だった。因果応報など存在しない、とその時点までの女の人生の順風満帆ぶりを知れば誰もが思ったであろう。
■何十年越しの因果応報
しかし、ついにそのような意地悪を重ねてきた女にも因果が巡るときがやってきた。町を出てから初めて、何十年ぶりに小学校時代の同級生で集まろうと、同窓会の知らせが届いたのだ。女にとっての小学校時代は、取り巻きに囲まれ自分が常に主役で楽しかった記憶しかない。幸いにも同窓会の日は予定がなく、子供もこのときはすでに手を離れていたため喜んで参加を決めた。当時の同級生とはすでに誰とも連絡を取っていなかったものの、久々に会えばまた話が弾み楽しい時間を過ごせると思っていた。
同窓会当日。女が故郷の小学校近くの会場となる店に着いたものの、店の前に良くある『◯◯小学校同窓会 御一行様』といった案内表示もなく、店の前にも店内にも、見覚えのある顔は一人もいなかった。場所を間違えたかと思った矢先。店の外から、誰かが女を旧姓で呼んだ。
声の主の姿は見えなかったものの、「◯◯さん、こっち」と言うので、皆は少し早くに集まってどこかへ移動するつもりなのかと思い、店の外に出た。道の少し先に何人か、同い年と思われる女性達がいる。田舎で会場になった店以外はほとんど夜に空いている店もなく、街灯もまばらな暗がりで顔がよく分からないけれど、女は彼らが当時の取り巻き達だろうと思った。
「こっちにね、どんな願いも叶う井戸があるんだって。◯◯さんも来るでしょ?」
「△△ちゃんが来ないはずないって」
さらに、下の名前で女を呼ぶ声も聞こえてきて、女は彼らが当時の同級生だと確信した。ちょうどパワースポットブームの頃だったので、自分の故郷に願いの叶う井戸があるとは初耳だったものの、好奇心と「かつての取り巻きが皆行く場所に自分が行かないなんてありえない」との思いで彼らについて行くことにした。
街灯のまばらな暗い道を進む。いくら早歩きをしても彼らとは一定の距離がある。もっと歩調を合わせてほしいと思いつつ、かつてのボスだったプライドがそれを許さない。女はこの日のために買ったワンピーススーツに合わせて高いヒールのパンプスを履いていたので、そのせいで自分だけ、歩きにくいのかもしれない。暗くて彼らの足元はよく見えないけれど、きっともうみんなお洒落を諦めて楽な靴なのだろうと考えて納得することにした。
店を出てから、女の体感ではかなりの距離をかなりの時間をかけて暗がりを歩き、さすがに足が痛くてこれ以上は無理と思ったそのとき、
・・・後編に続く。
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芦屋道顕の真夏の怪談
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