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(1)綺麗な着物を着せられて。生贄の記憶の話【ブラザー辛】
(2)綺麗な着物を着せられて。生贄の記憶の話【ブラザー辛】
謎の仏様を祀る純喫茶で聞いた一族の闇と現代まで続く呪い
前回の続き。
義母はさらに続けた。
「ここなら、私達の家から離れているし、この喫茶店は仏様の御加護があるから、ここなら大丈夫だと思って」
Aさんはまた訝しんだ。
「どういうことですか?私達の家の近くじゃダメな話が?」
Aさんが少し大きな声を出したので義母は唇に指をあてて「しっ」というジェスチャーをした。それから、純喫茶のカウンターにいるオーナー夫婦に目配せをして頭を下げた。義母と同い年か少し年上くらいのオーナー夫婦は「かまわなくていいよ」とでもいうように、顔の前で手を横に振った。
義母はそれでも小さな声で言った。
「手紙にも書いたけど、うちの一族にはね。あるときから生贄で殺された女の子が生まれ変わってくるようになったの。それまではうちの一族の女も、嫁に来た人達も、男腹(男ばかり産まれる)だったのに、あるときから女ばかりが産まれるようになって」
「たくさん産まれる娘達の『誰かが』いつの生贄の子なのかは分からないけれど、生贄で殺された記憶を持つ女の子なのよ」
Aさんは、次女がそれなのだとはっきり理解した。家を出るとき、自分をじっと見ていたあの目つきを思い出してもぞっとした。自分の娘なのに……。と、罪悪感が込み上げてきた。
「それでね。その子達は、我が一族になんで生まれてきたのかって。分かるでしょう?長い時間をかけてね。じっくりとね。一族を苦しめて、絶やすつもりなのよ。これはさすがに書くのが怖くて」
「あの子達はね。何かとても不思議な力と記憶を持って生まれてるの。あの子達がいるところ、近くにいるだけでも……。一族の話や頭の中で考えてることも、読めるみたいなのよ。だから、この話はあなたの家や、うちでは出来なかった。ここなら、安心だから」
義母は本気で怯えた表情をしていた。
「あなたには話してなかったけど。悪く思わないでね。あなたは息子のことを愛してるから、もしかしたら嫁ぐ前に聞いても結婚したかもしれないけど。でもね、実はあなたの前に、あの子(息子)の恋人にこの話をしたら『お義母さんが、私のことを嫌っていて、おかしな話をしてあなたと別れさせようとしている!』なんて言われたことがあって」
「だから、息子とも約束してたの。この話は、Aさんには絶対にしないって。ね?悪く思わないでよ。それに、もし、息子しか生まれなかったらこの話はまったくしなくて済んだし、娘だって、長女の◯ちゃんはお宮参りもできたでしょ?七五三もできたでしょ?だから、そういうこともあるし」
「でも、次女のあの子がお宮参りの着物を嫌がって、その後も……。3歳を過ぎるから、今のうちにAさんには伝えておかないといけないと思って」
「分かりました。正直なところ、あの子は上の子と何か違うな、と最近思ってきていたところで。特に今日、家を出る時は怖い感じで、我が子なのに……。その、伝えておかないといけない話とは、なんですか?」
義母はついに最も重要で恐ろしい秘密を話してくれた。
「生贄の生まれ変わりの子達はね。物心つく頃……。3歳を過ぎる頃から、どんどん反抗的になるの。それをよその人達に話すと、単なる子供の反抗期だとか、実は虐待してるんじゃとか、発達障害だとか、病院に連れて行けとか言われるばかり」
「それでも、病院で精神分析やらお薬出してもらうやらして、落ち着くならどんなにいいか。でも、一族の掟で、一族の娘にこういう子が出てきたときは、絶対に病院なんか連れて行かないの。連れて行った後で、その子に何かあれば、家族の責任になるでしょう?」
「・・・どういう意味ですか?」
義母はさらに声をひそめた。
「あの子達はね。物心つく頃から本当に私達一族に……。自分の親でも姉妹でも兄弟でも、とにかく激しい憎しみと怒りを露わにして、隙あらばと攻撃してくるのよ」
「うちの一族はみんな、一つの街に長くは住まないの。それが不自然じゃないように、男は転勤が多い企業のあえて転勤が多い仕事を希望する。なぜかって?大抵ね。生贄の生まれ変わりの子が出た家からは、数年以内に死人が出るからなのよ」
「生贄の生まれ変わりの子が、兄弟姉妹をね。マンションのベランダから突き落としたこともあった。お風呂で溺れさせたこともあった。他にも、階段を降りようとする母親の背中を押したり、車で出かけたときに助手席に乗せていたら、高速で突然、運転席の父親に襲いかかって車が横転して……。とかもね」
「本人が死ぬこともある。前世で生贄で無理やり殺されたんだから、今世は生きてちゃんと大人になりたくて生まれてきたんじゃないのか、と、思うでしょう?違うのよ。うちに生まれてくる子達は……。本当に、一族にダメージを与えることが目的だから」
「特に、母親のお腹に次の子が宿ってるときに、ショックを与えたり、周囲からあれこれ陰口を言われたりするのを見越していたかのような、おかしなタイミングで死ぬの。でも、まだ小学校にも上がらないような幼い子が自殺なんてするわけない、とみんな思うでしょう?それを狙ってるんでしょうね。お風呂で溺れ死んだり、わざと車の前に飛び出したり」
「Aさん、あなたのうちの◯ちゃんも、そろそろそういうことをするようになるかもしれないわ」
続く。
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