日常に潜む妖怪(2)直接、体に触れて生気を奪う手強い妖怪も【芦屋道顕の現代の呪】

(1)はこちら→日常に潜む妖怪(1)人の生気を吸い取るあやつは妖怪ぞ!

寄ってきて友達のフリをしてちょいちょいとマウンティングをして生気を奪うてゆく妖怪も嫌なものではある。

がしかし、さらに豪快に大胆に、一度に大量の生気を奪っていくタイプの妖怪は「人に触る」ことをとても好む。

彼らは、生命力が余っているであろう若者が多い場所によく現れる。

おぬしは、カルチャーセンターやボランティアなどで、やたらに馴れ馴れしく体に触ってくる人おじさんおばさんに出会うたことはなかろうか?

いや、学生時代のクラスメイトやバイト先にもやつらは潜んでおる。若くとも、やたらと人と腕を組んで写真を撮りたがる、ハグやキスをしたがる「見た目の可愛い女子」がいたならば、それは若き妖怪持ちであったやもしれぬ。

彼らは、生気を吸い取りやすい人間を見分けターゲットとして何度でも同じ手口を使うてくる。

■「着物」周辺は妖怪の溜まり場

そして、やはり妖怪は古くから日本に巣食うているゆえ、着物が好きであるようじゃな。妖怪爺婆の出没地のメジャーなものに、茶道、花道、着付け教室などがある。

わしが一番最近に聞いたのは、着物の着付け教室に通い始めた女子大生が、同時期に習い出して、決して相手の方が上級者なわけでも先生でもない、ただの「お直しおばさん」につかまってしまって困っている話じゃ。

毎回、一人でなんとか着付けをしようとしていると横合いからあれこれ口出しをされ、着付けを終えても、先生でもないそのおばさんが直そうとしてくる、というものであった。

さらには、彼女はどうも妖怪に目を付けられやすいらしく、仲間と歌舞伎を観に行ったおりも、やはりなんとか学んで格も季節も問題のない着物を着て行ったにも関わらず、他人の着物を観ると口出しせずにいられない妖怪婆の一軍につかまってしもうたそうじゃ。

頼んでもいないのに帯の位置を直され、帯とコーディネートで可愛らしいはずだったレースのカラー足袋が非常識だからと、妖怪婆が持ち歩いていた白い足袋に履き替えさせられるなど大変に嫌な思いをし、すっかり歌舞伎を観に行く気力を削がれてしまったそうな。さらには、その日から高熱が出て数日寝込んでしもうたとも。

■古い着物やアンティーク、宝石には妖魔が宿りやすい

その婆達は元からそのようなお節介な性格であったのは否めない。が、そこに伝統芸能を愛好し、その道の通になることにアイデンティティを見出すようになり、マウンティングを好むようになると、やはり魔の漬け入る隙ができるのであろう。

とかく、着物やアンティーク、宝石などには持ち主の念、執着が入りやすく、人手を経ていくうちに、妖魔の格好の住処となる。

六条の御息所(Public Domain)

そして、妖魔の棲みついたそれを手にした人は、妖魔を身の内に呼び込みやがて支配されてしまうのじゃな。

良いものは時代を越えて受け継がれていくべきであり、古いものを大切にするのは素晴らしいことではあるが、過ぎた執着や競争心は、自身も他人も不幸にしてしまう。

ミイラ取りがミイラにという言葉があるが、困ったことにこういった妖怪に出会ってしまい、うまくかわせずに何度となく関わるようになると、気付けば己の身の内にも魔が棲んでいることもある。過去には忌み嫌っていたお節介おばさんに、自身がすっかりなってしまわぬ保証はない。

難しかろうが「人のふり見て我がふり直せ」人にされて嫌なことは、自身がやらぬよう常に己を客観視すること、そして何より、負の影響を与えんとする妖怪達からはできうる限り遠ざかることじゃ。

そして、ごく手軽に魔を避ける手段としては、下着、特に下半身に赤いものを身につけることじゃ。血のようなどす黒さの混ざった赤では逆効果であるが、祝い事で使う紅白の幕や結びの赤の色は、人の生気を奪う妖怪が最も嫌う色である。

では、次回は、人に厄を付ける疫病神のような妖怪についてじゃ。


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