幽霊の経験談(5)復讐後に彷徨った200年の話【怨霊の行方】
幽霊だった経験談シリーズ、いよいよ最終回じゃ。
前回までのあらすじ:貧しいながらも幸せに暮らしていた前世で、夫が心変わりをしてお屋敷持ちの令嬢の元に去り、邪魔になった妻(女性)は夫に殺され屋敷の裏に埋められた。妻は幽霊となり、あの世の良き場所へ行くための光が見えたが拒んでこの世に留まり、令嬢と夫に復讐を果たした。自分の死体遺棄を引き受けた男の身体を乗っ取り令嬢の息の根を止めた。
『数日の間に、屋敷を訪ねた客が令嬢の遺体を発見し、警察が呼ばれ、メモが見つかり、男と、隣街に身を潜めていた夫が捕まった。同じ頃、湖へ行く道で私の遺体も発見された。男も夫も、絞首刑になった。私の復讐は果たされた』
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芦屋道顕の霊的真実
■復讐を果たしたけれど「消えもせず、あの世に行けない」
『令嬢を殺し、夫は私と令嬢の2人を殺害して令嬢の財産を乗っ取ろうとした罪で絞首刑になり、復讐は果たされた。やりきった、と思えた。もう、この世に未練はない。地獄は信じていなかったから、あとはただ消えてしまうのだと思っていた。何もせず、ただぼんやりと空き家になった屋敷を眺めていた』
『どれくらいの時間が経ったのか分からない。屋敷は誰も住まず、ごくたまに近所の子供達が興味本位で幽霊を見に来たけれど、私は姿を現さなかった。私は、自分が消えるのを待った。でも消えなかった。あるいは、またあの世への光が見えるのかもしれないと、光を探して歩いた。だけど、光はどこにも見えなかった』
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『何もすることがない退屈な時間は永遠のようで耐え難かった。やがて、屋敷は取り壊しが始まった。工事の人々がひっきりなしにやってくる。寂しさと退屈を紛らわすために彼らに近づいてみた。ただ、誰も霊感がないようで、気付かれることはなかった。ものを動かせば気付くかもしれない。解体工事中に窓ガラスをガタガタ揺すってみたり、壁にかけてある絵を落としてみたり、できることはやってみた。けれど、皆「工事中の振動だろう」とでも思うのか、誰も気に留めなかった』
『解体工事が終わって更地になると、そのあとには何か大型の機械類、今の時代のショベルカーや、建設資材の鉄骨のようなものが大量に持ち込まれて置き去りにされた。ショベルカーを初めて見た当時は、それがいったい何なのか分からなかった。そういえば、牛や馬が引く荷車や馬車をずいぶん前から見なくなっていた。代わりに、トラックが現れていた。もう、時間の流れがどれくらいなのか、私が死んでからどれくらい経ったのか分からなくなっていた』
『屋敷の跡地が資材置き場になると、あとはほとんど人は来なかった。来ても私は遠くから眺めているだけで、特に自分の存在を知ってもらいたいとも思わなかった』
『それからまた、だいぶ時が経って資材置き場だった場所は工場か何かになるらしく、また工事の人達がたくさんやってきた。その中に、なんだか懐かしい顔が見つかった。あれは、私の夫じゃなかったか』
『自分がこの場所にずっといる理由ももはや忘れ果てていて、でも、確か誰かに逢いたくてここに来たんだ、と、あの悲しい事件のことは忘れて、夫を連れ戻しにきたことだけが記憶に残っていた。私はその夫に似た男性に話しかけた。もちろん、声は聞こえなかったし姿は見えなかったけれど、その男性は少しだけ霊感があって、身体が重くなったようだった。具合が悪いからと、仲間に断りを入れて帰宅することにしたようだった。彼が車に乗り込んだので、私も乗り込もうとした。だけど車は金属で出来ていて、中には入れなかったので、車の後をついていった』
『車の後について道を走る間、不思議なものを目にした。泥だらけだった道は平坦になり、道沿いには街灯が並んでいた。(転生した現代の)私なら、電灯だと分かるけれど、当時の私にはまるで魔法に思えた』
『車はある大きな屋敷の前に止まった。私はあの事件を思い出した。けれど、記憶があまりにも曖昧になっているので、目の前の男が夫ではないことも、その建物があの屋敷ではないことも分からなくなっていた。とにかく、憎しみと悲しみだけがこみあげてきた。(そうだ、この扉の向こうには豪華な広間が、二階の広く美しい寝室には憎らしい女と赤ん坊がいるんだ)そう思い出しながら、男のあとをついて屋敷らしき建物に入った』
『ところが、扉の向こうは広間ではなくすぐに狭苦しい階段があった。男は階段を登り、二階の狭い廊下の突き当たりにある粗末な木の扉を鍵を使って開けた。中は、とても狭かった。それでも、私は部屋の中をぐるりと見渡して、女と赤ん坊の姿を探した。この部屋には男しか住んでいないようだった』
『夫は今はここに一人で暮らしているのか?と、男と夫を混同したままの私は不思議に思った。女は外出中で、やがて帰ってくるかもしれない。そう思って、私はそこに留まった。男は具合の悪さを感じたほかは、私の存在には気付かなかった』
『翌日になると、男はまた仕事に出掛けた。私もまたついていった。そして日が暮れるまで肉体労働をして、男はまた夜になると外観だけ屋敷のように大きな建物の、狭苦しく粗末な部屋に帰ってくる。それがずっと続いた』
『私はなんとなく、もうこの男が夫ではないことに気付いていた。そして、この男には妻子はおろか、恋人もおらず一人きりでただ肉体労働をして、安い賃金で住める集合住宅に寝に帰るだけの生活をしていることにも気付いた。それでも、もうどこかへ行く気力も何もなかった私はその男と日々を共にした』
『いつしか、男はすっかり歳を取っていた。肉体労働で足腰を痛めて、仕事にも行かなくなりわずかな蓄えを切り崩して酒を飲みに行き、酔っ払って帰るばかりの日々が続いた。呑み屋に置いてあった新聞の発行日を見た気がする。日付までは覚えていないし、当時はそれが新聞というものだとは分からなかったけれど、殺された頃から200年は経っていたように思う。ある朝、気付くと男がじっと私を見つめていた。あれ、この男は私が見えないはずなのに、どうしたのだろう?』
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『その謎はすぐに解けた。男が寝ていた粗末なベッドを見ると、そこには男が横たわっていた。けれど、そのかたわらに同じ男が立って私を見ていた。ああ、この男もついに死んだのか。男は私を不思議そうに見つめて、何か話しかけようとした』
『けれど、その瞬間に男は私が立っているのとは逆の方向に顔を向け、まぶしそうな、そして嬉しそうな表情をした。それから、愛しげに誰かの名前を呼んだ。そして、消えてしまった。その男は私が見ていた限りでは孤独な人生だったけれど、そんな男にもちゃんと愛に満ちた迎えが来ていたんだ、と思うと不思議と安堵した。いつのまにか、孤独な男に自分を重ねていたのかもしれない』
『そしてなにより、それを見て、自分が遠い昔に愛した夫や仲の良かった人達、幼い頃に死んでしまったけれど愛してくれた母のことを思い出した。人間だった頃の、辛いことも多かったけれど幸せだった記憶がいくつも蘇ってきた。もう一度、やり直せたら。心からそう思った』
『思った次の瞬間、とても懐かしい、まばゆい光が見えてきた。時代が進んで灯されるようになった明るい照明の光や朝日とも違う、あの美しい光だった』
『光の中に、姿や誰なのかは分からないけれど良く知っているような、懐かしくて愛おしい誰かがいて、心に語りかけてきた』
“辛かったでしょう。苦しかったでしょう。もう、充分あなたは苦しんだ。こちらへおいで。一緒に行きましょう。こちらにはもう、あなたを傷付ける人はいないから”
『その優しい声、というか声ではないけれど伝わってきた想いに導かれて、今度は素直に光に向かって歩いた。光に包まれたら、この世で経験したすべての悲しみも苦しみも憎しみもぜんぶ、もうまるで自分に起きたこととは思えなくなって、長い長い映画を観ていて見終わったような感じがした。もう、何も苦しむことはないんだ。心のとても深いところから満たされた』
そうして、あの世でしばらく至福の時を過ごしてから、またこの世に降り立ったのじゃな。
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