【真夏の怪談】ある男の突然死の前に起きた幾つもの怪異【芦屋道顕】

【真夏の怪談】ある男の突然死の前に起きた幾つもの怪異

もう数年前になるが、地元の友達が彼女と同棲するために、安いがなるべく条件の良い部屋を探しておったのじゃ。霊感もなく幽霊など信じていない2人だったゆえ、ちょうど見つかった「告知事項あり」の物件に興味を持った。不動産会社は地元密着で彼の父親とも知り合いだったゆえ、きちんと告知事項の詳細を話してくれたそうじゃ。

『前の住人は一人暮らしの40代男性。2DKのダイニングで倒れていた。検死によると、死因はくも膜下出血。近くに住む弟が、兄の勤め先から「出勤していない」と連絡を受けて訪れたところ、インターホンで応答がなかったため合鍵で入る。

発見した時にはすでに明らかに亡くなっていたが幸い冬で寒い時期だったため損傷は酷くなかった。特殊清掃の必要もなく、クリーニングで完全に問題なくすぐにでも住める状態。

男は家族によってきちんと葬儀をあげられていて、遺品の整理は仲の良かった弟が行った。クリーニングの前に、念のため不動産会社が世話になっているお寺の住職を呼んでお経もあげてもらった』

これはつまり、昨今ではあまり珍しくもなくなってしまった孤独死……。

とは、生者が勝手にそう偏見を持って決めつけただけの言葉。その男にとっては単に誰もがいつかは死ぬ、それがたまたま1人のときで平均寿命よりは早かっただけのことじゃ。立派に働き、悠々自適の独身貴族を謳歌し、年金の心配もなく長患いもせず旅立てた。怨霊となり居座る理由などない。

また、売る側ゆえにそう説明するのは当たり前やもしれぬが、不動産屋の担当も「自分には少し霊感があるから、よくない物件は嫌な感じを受ける。だけど、病死の方の部屋は案外、なんともないことばかり。この部屋も何も嫌な感じはなく、クリーニングで新築同然、気持ちのいい部屋。それでも、やはり気にする方が多いのでこの部屋については他より家賃を低くしてある」との説明であったそうな。

そして内覧したところ話に偽りはなく、さっぱりとしていてベランダも東南向き。すぐに契約を交わして引っ越しもした。心霊現象など何もなく、快適に過ごしていたが彼女の母親が訪ねてきた折にその部屋の前の住人の話をすると「念のため、ご無礼のないように、お墓参りくらいしておいたら?」というので、2人は元住人の墓参りを考え、不動産会社を通じて男の弟と連絡を取った。弟は快諾してくれ、墓参りに同行してくれた。

・・・その道すがらに聞かせてくれた、元住人の死の前に起きていた幾つかの現象というのが、少々ゾクっと来るものであった。

■死を想起させる出来事が重なる

その男はホラーはもちろんサスペンスすらも苦手で、心霊現象や怪奇現象、人が死ぬ・殺される話に至っては大嫌いで常に避けており、地上波で放送されていればすぐにチャンネルを変えるほどであった。しかし、死の数日前に、弟に「悪いことが重なってついには死ぬ話を知ってたら教えてほしい。調べたいことがある」と伝えていたそうじゃ。

そして、なぜなのか尋ねたところ、彼の兄は死ぬ数日前までに自分の身に起きた出来事を列挙したそうな。

「ポストに『終活』サービスのチラシが入っていて、ふと気になって、コレクションしてたものをフリマアプリで売り払ってしまった。いつも半分くらい売れ残るのに、今回は10品以上出品してぜんぶすぐに売れた」

「数年前に別れてからまったく音信不通だった元カノから『あなたが寂しそうな顔で夢に出てきた。大丈夫?』と連絡があった。彼女はすでに結婚していて、復縁したいわけじゃなく本当にただ、気になったらしい。上京してから疎遠になってた学生時代の親友からも突然連絡がきた」

「俺の夢には、幼稚園の頃に死んだばあちゃんが出てきて寂しそうな顔をしてた。俺に『まだお前には会いたくないのに、来るんだね』というようなことを言って、『あんなに可愛がってくれたのに、なんで嫌がるんだ?』と不思議に思ってるときに目が覚めた」

「茶碗が割れた。落としたわけじゃないのに、朝洗って水切りに置いたときは確かに割れてなかったのに、夜に使おうと手に取ったら割れてた」

「茶碗が割れた翌日、今度は自分の不注意だけど、箸をキッチンの引き出しにしまおうとして、引き出し閉めるタイミング間違えて箸を挟んで折ってしまった」

「まったく疲れてなかったのに、電車で前に座ってた俺より明らかに歳上のおばさんが『あなた、大丈夫?座って。過労死寸前みたいな顔してるわよ。座って』と、強引に席を譲ってくれた」

「数ヶ月の間、なんとなく好きな曲を集めて作ったプレイリストのミュージシャンが皆、若いうちに死んだ人ばかりだった。そのうち2人は今の自分と同い年で死んでる」

「会社で慕ってくれてる新卒に、冬のボーナスの使い道を『通夜にはグレーのスーツ、告別式には喪服を社会人なら揃えとかなきゃだぞ』なんてアドバイスしちまった。そいつ、その日のうちにスーツ専門店でグレースーツと喪服、数珠や薄墨ペンまで揃えたって。『よし、これで俺の葬式で恥を欠かせないで済むな』『死ぬ予定あるんすか 笑』なんて変な会話をしてしまった」

「飲み会の集合写真を同僚が『これじゃSNSにアップできない』と個別に送ってきた。みんな普通に映ってるのに、俺の顔の上だけ赤い光が横切ってた。ごくふつうのスマホカメラで撮ったのに」

「ベランダで洗濯物を干してたら、真正面にカラスが降りてきて『カッ』と一鳴きだけして飛び去った。これが一番、怖かった」

これらが死の約1週間前から立て続けに起きていたそうじゃ。どれも、一つや二つならばただの出来事であるが、これほど重なるとやはり予兆だったのやもしれぬのう。

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