【芦屋道顕】結婚できない霊的原因(3)神への捧げ物として生まれた娘の話【現代の呪2】

前回は良家の主に長男で、古い因習を守り「神との結婚」をして、生涯独身を貫かねばならぬ家系の者がいるという話をした。今回は、もう一つこちらはより恐ろしい「神への捧げ物」にされた娘の話じゃ。

■娘を神に捧げ村や一族を災いから守る因習

本来ならば人が住むに適さぬ土地というものがある。川が氾濫し濁流に飲まれる土地、痩せ枯れて作物が育たたぬ土地、地震が起きれば土砂崩れに埋まる谷間の土地、沼が腐り瘴気が充満し死に至る病の絶えぬ土地……。

これらは神の怒りであり、それを鎮めるために様々な儀式が行われてきた。平成も終わろうとするこの時代、すでにそのような因習のあった村などは廃村となっておろうが、神の怒りを鎮めるために最も効果的とされたのは生贄を捧げること。動物ではなく人間を、穢れなき赤子か7歳を迎える前の幼子の命を差し出すことで、他の村人達は難を逃れていた。

また、村ではなく「家」単位で生贄を捧げていた一族もある。先祖が誰やらの恨みを買い、その怨霊に祟られて、あるいは何やら邪神の怒りを受けて……。

本来ならば一族全員が命を落とすところ、生贄を差し出すことでほかの一族が命拾いをするのじゃな。

そのような生贄に選ばれるのは、ほとんどの場合がその家の末娘であった。元々、作物が育ちにくく何かあれば村全体が飢えるような土地では、口減らしとして末娘のみならず、次男次女以降は奉公に出されるなどしておった。

多産多死と男尊女卑が当たり前だった時代、上に兄弟姉妹がいれば、差し出すにあたりもっともその家の心理的な負担が少ないのが末娘だったのじゃな。

生贄に選ばれる女児はそのために生まれてくるゆえ、戸籍にも載せられず、名前すら付けられぬことすらあった。なんとも悲しい話であるのう。

村全体を守るための生贄の場合は、ある一家からと決まっていたわけではなく、輪番制で村内のあらゆる家から生贄は差し出された。ゆえに時代が進むとこれを嫌って村を出る一家も増えていった。村を出れば例え娘が生まれても生贄に差し出す必要もなく、ごく普通の暮らしを送り、娘も成長し人並みの人生を送ることができる。・・・はずであった。

■生贄を出していた家の末娘が嫁げない呪いとは

しかし、長年その先祖が行ってきた行為はなんの罪もないはずの子孫の人生に悪因悪果として反映することがある。因縁の村から遠く離れても、生贄にされた娘達の「どうして私ばかりがこんな目に。あの子も本当は同じ目に遭うはずだったのに」という妬みの念は時空を超えてやってくる。本来であれば、己を生贄にした当時の村人をのみ怨むべきであろうが、悲しいかな物心つく前に命を落とした幼子にはそのような道理も伝わらぬのじゃ。

あるいは、こちらのほうがより恐ろしいのであるが、逃げても追うてくるのは死者だけではなく、生贄を捧げられなくなった神もまた追うてくる。生贄を求めるような神は本当の神などではなく、神を騙る邪悪な存在じゃ。

これらから逃げ延びるのは至難の技で、結婚できないどころかその年齢までには命を取られてしまうことがほとんど。かつて、これらの呪いと闘うた陰陽師や法師の中には、敢え無く敗れ己もまた命を落とした者も多かろう。

★命を取られないだけまだマシと思うべきか?

生贄を行う村から逃げ出した初代から数代目までのその村出身者の家族は、せっかく生贄は免れてもやはりそうして末娘を失うことがあった。

しかし、村を守る生贄ではなく、家系の呪いを受ける人身御供として末娘を差し出していた家であれば、因習を己らで断ち切りさえすれば命を取られるまではなかった。

しかし、その場合は時間をかけて「家系が途絶える」運命を生き残った一族皆が歩み始めるのじゃ。ゆえに、一族の息子達は結婚できずあるいは結婚しても子供ができぬ。娘達はたとえ名字が変わることになろうとも、血を受け継ぐ者を産ませないために、まず結婚できず、結婚できても子を授かる前に夫とは不仲になりあるいはついに授からぬのじゃな。

もし、適齢期を過ぎても一向に結婚する気配のない男女、子を持たぬ夫婦がいたとしたら、それにはおよそ他人が理解できぬ事情があるのやもしれぬと思うて、蔑んだり憐れんだりせぬことじゃ。


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