公正世界仮説とは?
公正世界仮説(こうせいせかいかせつ、Just World Hypothesis)とは、心理学において、人々が「世界は基本的に公正であり、人は自分が値する結果を得る」という信念を持つ傾向を指す理論です。この仮説は、社会心理学者のメルビン・J・ラーナー(Melvin J. Lerner)によって1960年代に提唱されました。
主な内容
公正世界仮説によると、人々は以下のような考え方を無意識に持つことがあります:
– 良い人には良いことが起こり、悪い人には悪いことが起こる。
– 努力した人は報われ、怠けた人は報われない。
– 不幸や苦しみに遭う人は、何かそれに値する行為をしたはずだ。
この信念は、予測可能性や秩序を求める人間の心理的ニーズに基づいています。世界がランダムで不公平だと感じるよりも、公正であると信じる方が精神的な安心感を得やすいためです。
具体例
1. 災害の被害者に対する反応
例えば、地震や洪水で家を失った人々を見たとき、「あの地域に住んでいたのが悪い」「準備不足だったからだ」と考える人がいるかもしれません。公正世界仮説に基づくと、「不幸は本人の責任」と捉えることで、世界が予測可能で公正であるという安心感を保とうとします。
2. 貧困やホームレスに対する見方
ホームレスの人に対して、「努力が足りないからそうなった」「怠け者だからだ」と決めつける場合があります。実際には経済的・社会的な要因が大きいにもかかわらず、「努力すれば成功するはず」という信念から、彼らの状況を自己責任とみなしてしまうのです。
3. 犯罪被害者の非難
性的暴行の被害者が「夜遅くに出歩いたから」「露出の多い服を着ていたから」と責められるケースも、公正世界仮説の一例です。加害者の行為を正当化するわけではないものの、「被害者にも落ち度があった」と考えることで、「自分はそんな目に遭わない」という安心感を得ようとします。
社会的な影響と問題点
公正世界仮説は、時に「被害者非難(Victim Blaming)」につながることがあります。例えば、犯罪の被害者や災害で苦しむ人に対して、「何か原因があるはずだ」と責任を押し付ける態度が生まれる場合があります。また、現実には不公平な出来事が頻繁に起こるため、この信念が過度に強いと、現実と信念のギャップに苦しむこともあります。