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生贄
ふだんなら流してしまうローカルニュースが気になって
前回、(4)の続きから。
転居先を夫や義母に知られないよう、田舎の街でさまざまな噂が囁かれたのを利用して「実はDVが真実なんです。もう、絶対に会いたくないので転居先の情報や連絡先が元夫と義理家族に知られないようにしてください」とあらゆる方面に頼み込んで、一切の連絡を断つ形でめでたく新生活を始めることができた。
・・・その後、数年経って長女はもう中学に進み、Aさんも長女も無事だ。ただ、
「少し前に、気になるニュースを知ってしまった」とのこと。
中学に進んだ長女は、必死で働くAさんを助けるように、家事を積極的に行うようになり、Aさんも幸い収入が安定してきて、土日や祝日は家でのんびりもできるようになっていた。
そんなある休日、特にすることもなくスマホでSNSに流れてくる種々雑多な投稿を漫然と眺めていたAさん。他のニュースはタイトルだけ読んで流せたのに、あるローカルニュースは何か引っ掛かって掲載元のニュースサイトまで読みにいくことにした。タイトルは、ある母親車の前に飛び出した娘を助けようとして亡くなった、という悲しいけれどありがちな事故のニュースだった。
ただ、記事の詳細を読むと、その母親と娘は実の母娘ではなく、母親は再婚で、娘は夫と前の妻の子供、ということだった。事件現場として載っている画像に、Aさんは見覚えがあった。「私達が住んでいた家の近所の、あの交差点だ!」そして、亡くなった母親の苗字は前の夫の苗字。
娘の顔は映っていなかったものの、助かった娘を抱きしめる父親の横顔はまぎれもなくAさんの前の夫だった。
Aさんは、元姑の言葉を思い出した。
「でも、かつてうちの一族の名古屋の方に暮らしてた一家が車の事故で家族全員亡くなったときは、一族の人間じゃないお嫁さんも一緒に亡くなったわね。そういうのも気を付けなきゃだわね」
元夫は「義母の勧めで」再婚していた
どうしても事情を確認したくなったAさんは、何年越しに元夫に連絡を取ってみた。電話番号やメールアドレスは変わっていなかった。夫は「都会のカフェかどこかで会おう」と言ってきた。
数日後。久々に再会した夫は、再婚した妻を亡くしたばかりだというのに大して落ち込んだ様子もなく、笑顔でA子さんと向き合った。一通り、A子さん側の近況報告を済ませ、成長した長女の画像を見せると、そのときはさすがに元夫は涙ぐんだ。「成長したなぁ。無事で良かったなぁ」と、自分に言い聞かせるように頷きながらそう言ったあと、黙り込んだ元夫に、A子さんは一番気になっていることを尋ねた。
「ねえ、ニュースで見たんだけど、あの、交通事故で……」
「ああ、そうそう。再婚してたんだけどさ。あんなことになって」
「ねえ、事故の原因はあの子の飛び出しだって……」
Aさんがそこまで口にすると、元夫は遮るように、
「シーっ。誰が聞いてるか分かんないから!ここは地元からは離れてるけどさ、念のため」
と言って声をひそめた。それから、恐ろしい真実を口にした。
「あれ、本当は●●(次女)が妻を車道に突き飛ばしたんだ。幼児とはとうてい思えないすごい力で背中をドンッて。目撃した近所のおばさんと、妻を轢いた車の運転手も異口同音にそう言ってた。でも、警察は信じてくれないし」
さらに元夫は続けた。
「そのおばさんも運転手も、実は我が家と同じ村の出身で。義母がね、話をつけたんだ。目撃証言を変えてくれって。2人とも、すぐに事情を分かって証言を変えてくれた。車はドライブレコーダーには妻の姿しか映ってなかったけど、車高が高かったし『女の子は、ドライブレコーダーの死角に入っていた』ということにしたんだ」
そこまで話して、元夫は運ばれてきたアイスコーヒーを一気に飲み干した。そして、さらに恐ろしい話を淡々と、平然と続けた。
「やあ、本当に怖かったよ。でも、母(Aさんにとって元義母)の勧めに従って再婚しておいて本当に良かった 笑 事故のあと、●●(次女)は憑き物が落ちたようにふつうになったよ。笑うようになったし。笑うとAとやっぱり似てるよ。血は争えないというか。まあ、これでうちの代の生贄が済んだわけだから、あとはみんな無事に暮らせるはずだ。A、◯◯(長女)を連れて戻ってきてもいいんだよ」
※2024年、芦屋道顕が大学卒業、実家の家業を継ぐことになり忙しくなったため今後は辛口オネエの愛弟子・ブラザー辛が怖い話を担当します。
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