猫は異界の生き物(4)死んだ愛猫が異界から救ってくれた【真夏の怪談】
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異界で魔物に取り込まれそうになった少年たち
「あれ、ここはどこだ?」暗闇の恐怖に足がすくみ、立ち尽くした3人は異様な気配を感じたそうじゃ。暗闇にいくつか、赤や黄色の目が光っており、奇妙な笑い声が聞こえる。どうも、慣れ親しんだ近所の神社の裏手とは思えぬ、どこやら分からぬ空間で異形のものに取り囲まれていると感じたそうじゃ。
さらには、彼らそれぞれに「こっちへおいで」「一緒に行こう」「私の子になるか」「遊ぼうよ」などと話しかけてくる、確実にこの世のものではない妖(あやかし)がいたそうじゃ。
さらには、少年の腕を骸骨の手のようなものがつかみ、友人の足には蔦のようなものが絡み出して、このままではここから逃げられなくなる、と3人とも思うたそうじゃ。
黒髪の少女の正体は?
しかし、少年が骸骨の手を恐怖で固まりふりほどけずにいたところ、どこからともなく黒髪の少女が現れ「この子たちはだめ」と誰かに語りかけ、骸骨の手をそっとどけてくれたそうじゃ。
少年が驚いてその少女を見ると、少女は少し怒った顔をして「なんでこんなところにいるの。危ないから、早く帰って」と、言って、彼らの少し前を歩き始めた。
気付くと友人の足元の蔦も外れていて、もう一人も恐怖で金縛りにあったように動けずにいたのが、動けるようになった。ほかの「一緒に行こう」などの不気味な声とは明らかに違い、少女の声と佇まいは信頼できるものがあったそうじゃ。
何より、少年は説明されなくても、その少女がかつて可愛がっていた黒い子猫の化身だと分かったそうな。
無言で先を急ぐ少女の後ろにしばらくついていくと、見覚えのある林道に出て、その先には祭りの明かりがぼんやりと見えていた。気付くとそれまで取り囲んでいた異様な気配もすべて消え失せていた。
林道に差し掛かるところで、
少女は少年たちのほうを振り向くと「私はここまで。じゃあね。お母さんと仲良くね」と言い残し、また今来た暗闇に戻っていって姿が見えなくなったそうじゃ。こうして3人は無事、神社に戻ることができた。
少年は後日、一緒に異界を彷徨った2人に「あのとき道案内してくれた女の子、去年死んだ俺んちの猫だ」と興奮気味に話したが、2人は「そんな女の子いなかった」「たちすくんでたら、おまえが突然歩き出して、俺たちはおまえについていっただけ。そしたら、戻れただけ」と、少年の話には取り合わなかった。
しかし、少年が見た少女の姿は恐らく幻ではなく、死して異界の住人となった愛猫の魂が、かつての飼い主が迷い込んできたのに気付いて慌ててこの世に帰してやったに違いない。
少年はその後、共にいた2人やほかの友人に頭がおかしいと思われるのを避けるため、この話は母にだけ話し、あとは己の心にだけ留めていたそうじゃ。母はもちろん、少年の話を信じた。「そうね、あの子猫が恩返ししてくれたのね」