【芦屋道顕の怪談】盆に帰ってきた娘

※旧メディアVeryGoodからの移行記事です。リンク切れやレイアウト乱れ等ご了承ください。

祖父から聞いた話じゃ。

盆に帰ってきた娘

祖父がまだ幼かった頃、誰もが顔見知りの村の盆踊りで、ふと気付くと村の誰も知らぬ女が一人、踊りの輪の中にいたそうじゃ。

艶やかな浴衣姿に目をひかれた村の若い衆がお前は誰かと話しかけても、その女は目も合わさず答えもせず、ただ黙って踊っていたと。

後日、その女の正体が判った。村のある家の娘さんが十数年前、盆踊りの日の前日に流行り病で命を落とした。娘さんはその年、新しい浴衣を仕立ててもらったばかりで、盆踊りに着るのを楽しみにしていたそうなのじゃ。

その娘の両親は大事な娘を亡くしたことですっかり生きる気力を失い、神も仏もあるものかと神仏を祀ることも回忌の供養も、何も行わなくなった。先祖霊が戻ってくるなど迷信じゃと、盆の行事は一切やらず、迎え火をたくこともなかった。

しかし、月日と共に悲しみもだんだんと薄らぎ、その年は娘が亡くなってからちょうど20年の区切りということもあり、娘の両親は、思い立って盆のしつらえをして、迎え火をたいたのだそうじゃ。

そして、不思議なことに生前のままにしておいた娘の部屋を調べると、桐箪笥の中から浴衣と帯が、下駄箱からは娘の下駄がなくなっていたそうじゃ。

しかし、その翌年からは同じように迎え火をたいても、娘の姿が見られることはなくなった。きっと、浴衣に袖を通し思いを遂げて、この世に未練がなくなったのであろうな。

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