【怖い話】後編:死亡確認後に生き返った祖父は別人になっていた【芦屋道顕】

前編はこちら→【怖い話】前編:祖父が医師からの死亡確認後、半日経って生き返った【芦屋道顕】

生き返ったことは警察や近所には内緒に。医師の誤診ということにした

「死んだはずの、しかも年単位で寝た切りで鶏ガラのように痩せ細った老人が街灯もない真夜中2時過ぎに道の真ん中に立っていたら、誰だって驚くよね。犬の散歩をしていたおばさんの悲鳴と犬の吠え声が大きかったから、他の近所の人達も起きてきて、誰かが事件だと思って警察に通報したらしく、しばらくしてパトカーが来た」

「うちの実家はことなかれ主義だから、両親も親族もみんなこれが異常事態だと分かってはいたけど、警察にあれこれ言われるのが嫌だった」

「なので家族で口裏を合わせて『実は、ずっと寝たきりだったおじいさんが起きて出歩けるようになったんですけど、今日は目を離したら勝手に外に出てしまって』なんて、よくある認知症の徘徊だったことにして頭を下げまくって、パトカーには『異常なし』ということで帰ってもらった」

「そして、怯え切っていた近所のおばさんも両親も『最近の医者はあてにならないわねぇ』なんて、医師の死亡確認が間違いだったのだろう、ということにして、真夜中だけどあらゆる方面にまた連絡をして、お通夜と告別式のキャンセルをした」

「朝になってから医師にも連絡がついたけど、信じられない、絶対に心臓も止まっていて、瞳孔も確認して(ライトを当ててた。あれが確認らしい)確実に死んでいたと。でも、生き返ったからには仕方ないということで、死亡診断を取り下げることになった。別に損害賠償を請求とか、そういう話じゃないと知ってホッとしたようだった。今後もまた往診に来てくれることで話がついたらしい」

「人ってあまりにも異常な事態に遭遇すると、なんとかそれを頭で納得できるように、自分を騙すよね。正常性バイアスってやつ?僕自身は人って心臓が止まって半日経っても生き返ることがあるんだな、と、まだ子供だったし普通に受け入れた。とりあえず、寝た切りじゃなくなったから、お母さんが介護する負担が減っていいことなのかな?と思った」

生き返った祖父の挙動のおかしさと不気味さ

「とにかく、道端に立ち尽くす祖父を家の中に入れなきゃで、父と母で両側から祖父を支えて、家の中に入れた。そして、親族みんなで手分けをして、棺や祭壇を片付けて、祖父が寝る布団をしつらえた。僕は子供だから、ということで手伝いを免除されて、部屋に戻ってその日はとにかく寝ることにした」

「翌日が学校が休みだったから、昼過ぎまで寝てたんだけど、自然に目が覚めて『あれ、いつもなら母親がいつまで寝てるの!』と起こしにくるけど、来ないなぁと不思議に思って、下に降りた。すると、いつもなら食事が用意されているはずの居間で、誰もお茶の一杯も飲まずに両親と叔母さん達、お父さんの親族が集まってヒソヒソ話をしていた」

「僕に気付いた母は3千円を渡してきて『今日はこれで、昼もお夕飯も、好きなものでも買って食べて。お友達の家に泊まってもいいし。でも、おじいちゃんのことを聞かれたら、動けるようになったけど、認知症が悪化してるとだけ言ってね?分かったわね?』と、念を押してきた。僕は当時は月のお小遣いは千円だったから、3千円ももらえたし、もちろん母親の言葉に頷いた。それに、友達にやばいことが起きてる家だと思われて、いじめに遭うとか嫌だったし、認知症で、は、これから祖父がどんな変な行動をしても『おまえのところも大変だよな』で済む、いい言い訳だと思った」

「これは後で母に聞いたんだけど、そこに祖父を寝かせて、電気を消して部屋を出ようとすると、真っ暗な中から祖父は母の顔をじっーっと見つめていたんだって。その目が、どうにもかつての祖父じゃなく、何か別の得体の知れないものだったって」


「しかも、朝になって訪問医と、今回初めて付き添ってくれる看護師が一人来てくれて、二人とも一応、今まで通りに体調を確認してくれたんだけど、まず、年単位で寝た切りだった年寄りが、突然立ち上がって外に出ていけることが不思議。脚は本当に弱っていて、僕が見ても鶏ガラみたいだし」

「でも、何より、医師のほうは自分が死亡確認をした祖父が生きていることにやはりショックを受けていて、さらに……。」

「聴診器で、どう確認しても『心音が確認できなかった』んだって。そのときは聴診器の故障かもしれない、と半笑いで診察を終えたけど、看護師さんは『訪問時には聴診器はきちんと使えることを確認済みで、ここにくる前に寄ったご家庭でもきちんと心音は確認できていた』と言っていた」

「何より怖かったのは、年単位で意味のある言葉を発しなかった祖父が、医師の顔をじっと見て『お前がいつもの医者かぁ』看護師を見て『お前は見たことないなぁ。誰だぁ?』と、なんというか母曰く、まったく以前の祖父ではない別の男の声で言ったらしい。プロだから顔や態度には出さないけど、医師も看護師も怯えていたって」

「そして、診察が終わって彼らが帰ると、祖父はパジャマ姿のまま、外に出て行こうとしたんだって。母が慌てて引き留めたら『腹が減った』というので、食べ物なら家にあります、と、居間に連れて行ってとりあえず冷蔵庫にあるご飯を温めて、漬物や買い置きだけどお惣菜を出したら、それを祖父はじっと眺めてから『これじゃない』と呟いて、また外に出て行こうとした。母がまた引き留めようと腕を掴むと、鶏ガラのように痩せ細った老人とは思えない力で、母を振り切って、外に走り出ていったんだって」

続く

【怖い話】前編:祖父が医師からの死亡確認後、半日経って生き返った【芦屋道顕】

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