【真夏の怪談】顔がまるで思い出せない男【芦屋道顕】

【真夏の怪談】顔がまるで思い出せない男

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■顔がまるで思い出せない男

★怪しい健康食品のセールスマンだった男

その男がいた会社は怪しげな健康食品を取り扱っていた。年寄りをターゲットに無料の説明会を開催し、無料につられてやってきた年寄りに高額の商品を売りつけ、クーリングオフができないようにあの手この手で言いくるめるのがその男の仕事だった。新卒であらゆる志望企業に落ち、唯一入れたのがその会社だった。

単発で購入した年寄りの家にも後で押しかけ、頼んでもいない商品をどんどん置いていく。ほかの営業マンは商品自体が怪しいことに気付きすぐに辞める者も多く、続けている者も他に仕事がないからとやむおえずで、断られたら比較的あっさり引き下がり、返品と返金を要求されたら応じていた。

しかし、その男は身寄りのない一人暮らしの年寄りばかりを狙い、半ば脅して商品を定期購入させていた。身長が180cmを越えた強面の男には怖くて逆らえない。男は何年も営業成績トップだった。

★会社の元同僚の集まりで

男は営業のやり口は悪辣だったものの明るく豪快な性格で新卒で共に入った仲の良い同僚も何人かいた。あるとき、辞めた同僚達で久々に飲むことになった。そのとき、男も呼ぼうと誰かが言い出した。男は喜んで参加する、と主催者に連絡をした。

当日、男を含めて6人が集まった。懐かしい面々……とはいえ、退職が一番早かった同僚でも最後に会ったのが1年前で、皆、見た目には大した変化はなかった。痩せても太ってもなく、髪にも変化もなく。

しかし、男だけは何か異様だった。主催のAは最初に男を見たとき、かつての同僚とは分からなかった。身体は大きく、声や髪型も服装も雰囲気も変わりないはずなのだが、なぜか「こんな顔だったっけ?」と違和感を感じた。

ほかの元同僚も同じように感じたようだ。男の名前をLとすると「おまえ、本当にL?」と皆、疑った。ただ、どこが昔のLと違うのか、と聞かれたら老けて見える以外には答えようがなかった。昔の顔もなぜか急に思い出せなくなかったからだ。

「なんだよおまえら。イジメかよ(苦笑)」
「整形なんかしてないぞ。外回りで日焼けはしたな」
「痩せたのは確か。一年で8kg痩せたよ」
「やっぱり痩せたせいか?」

Lは営業のときの強気は微塵も感じさせず、かつての仲間の反応を伺うように自分なりに理由を並べ立ててみた。ただ、そのあとはすぐに別の話題に移り、顔のことはその場ではもう誰も何も言わなかった。

ただ、後日Lのいないところで元同僚達は密かに男について激論を交わしていた。

「あいつ、本当にLだったか?Lを名乗る別人じゃね?」
「だけど、そもそものあいつの顔ってどんな感じだよ。俺、覚えてないから比較しようがないけど、あんな村◯元首相みたいな眉毛長い……爺さんぽかったっけ?老けるの早くね?」
「そう、なんか日焼けとか痩せたとかじゃなくて、爺さん!さすがに本人には言えなかったけど」
「そうそう。あんなイボだらけって日焼けし過ぎだよな」
「イボあったか?白目が黄ばんでて肝臓やばそうとは思ったけど。どっちかっつーと婆さん」
「俺も!どっちかと言われればババアっぽかった気がする。でも、血色良かっただろ。せいぜい60代。でも、記憶より鼻が高かった気がする」

不思議なことに、Lに会った5人とも、Lがどんな顔をしていたかが一致しなかった。LはSNSなどもやっておらず、飲み会の日も写真を撮らなかったのでLの現在の顔を確認することはできなかった。

後日、その会社が倒産したことを元同僚達はニュースで知った。さらに数日後、飲み会の主催者だったAは、Lの急死の報せをLの妻から受けた。

この一年ほど「最近、何をしていても息苦しい」と訴えていて、病院に行ったが原因が分からず、心因性では?と心療内科の受診を勧められていたが、本人は行くのを拒んでいた。前の晩もやはり息苦しいとは言っていたがいつものことなので気に留めずに二人とも就寝した。朝、Lはすでに息をしていなかったそうだ。

通夜にまた飲み会のときのメンツで集まり、焼香をあげようとして皆はまた驚いた。遺影が20代の最近のLではなく、学ランを着た高校生時代と思しき写真だった。ただ、それは皆の記憶にある昔のLをさらに若くした顔で「そうそう、Lはこんな顔だった」と皆、ようやく思い出した。ただ、犯罪者やその被害者の写真ではあるまいし、高校時代の写真しかなかったのか?皆、不思議に思ってAが代表してLの妻に尋ねた。

「こんなときにすみません。遺影の写真……あれしかなかったんですかね?せめてリクスー着た写真とか」

すると、Lの妻は「私が頭がおかしくなったと思わないで信じてくれるなら」と前置きして、Aにその理由を話した。

「当然、もっと最近の彼の写真を探しました。もちろん、たくさんありました。結婚式や旅行の時の写真、誕生日のレストランで撮った写真。でも、この一年ほどは彼は写真をすごく嫌がって。鏡を見るのも嫌がってたほどで」

「『騙した客の顔が浮かんでくる』からと。彼がそう思ってるだけなら本当にストレスのせいだと思えるけれど、正直なところ私もこの一年ほど、彼の顔がときどき知らないお年寄りの顔に、しかも見るたびに違う顔に見えて怖かったんです」

「彼が原因不明の息苦しさに悩んでいたのも、本当にお年寄りの生き霊なのか、すでに亡くなった方の霊なのか分かりませんけど、祟られてたのかもと」

「最近の写真はないので、結婚式や新婚旅行のときの写真を引っ張り出してみました。そうしたら……結婚したのはあの会社に入社してからだったか、彼の顔がぜんぶやっぱり、知らないお年寄りの顔が重なったようになっていて、使えるものがなかったんです」

「それで、入社より前の高校生のときの写真を遺影に使うしかなったんです」

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芦屋道顕の真夏の怪談シリーズ

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