とは、生者が勝手にそう偏見を持って決めつけただけの言葉。その男にとっては単に誰もがいつかは死ぬ、それがたまたま1人のときで平均寿命よりは早かっただけのことじゃ。立派に働き、悠々自適の独身貴族を謳歌し、年金の心配もなく長患いもせず旅立てた。怨霊となり居座る理由などない。
また、売る側ゆえにそう説明するのは当たり前やもしれぬが、不動産屋の担当も「自分には少し霊感があるから、よくない物件は嫌な感じを受ける。だけど、病死の方の部屋は案外、なんともないことばかり。この部屋も何も嫌な感じはなく、クリーニングで新築同然、気持ちのいい部屋。それでも、やはり気にする方が多いのでこの部屋については他より家賃を低くしてある」との説明であったそうな。
そして内覧したところ話に偽りはなく、さっぱりとしていてベランダも東南向き。すぐに契約を交わして引っ越しもした。心霊現象など何もなく、快適に過ごしていたが彼女の母親が訪ねてきた折にその部屋の前の住人の話をすると「念のため、ご無礼のないように、お墓参りくらいしておいたら?」というので、2人は元住人の墓参りを考え、不動産会社を通じて男の弟と連絡を取った。弟は快諾してくれ、墓参りに同行してくれた。
・・・その道すがらに聞かせてくれた、元住人の死の前に起きていた幾つかの現象というのが、少々ゾクっと来るものであった。
■死を想起させる出来事が重なる
その男はホラーはもちろんサスペンスすらも苦手で、心霊現象や怪奇現象、人が死ぬ・殺される話に至っては大嫌いで常に避けており、地上波で放送されていればすぐにチャンネルを変えるほどであった。しかし、死の数日前に、弟に「悪いことが重なってついには死ぬ話を知ってたら教えてほしい。調べたいことがある」と伝えていたそうじゃ。
そして、なぜなのか尋ねたところ、彼の兄は死ぬ数日前までに自分の身に起きた出来事を列挙したそうな。
「ポストに『終活』サービスのチラシが入っていて、ふと気になって、コレクションしてたものをフリマアプリで売り払ってしまった。いつも半分くらい売れ残るのに、今回は10品以上出品してぜんぶすぐに売れた」