【芦屋道顕】結婚できない霊的原因(1)家系にかけられた呪いとは【現代の呪2】

★呪いを解くのは人任せではなく己で。しかし、家系への呪いは……。

わしの得意分野は霊的な事象であるゆえ、ほかのメンバーのように男心をどうこうせい、あるいは占いでの相性や時期がどう、という話ではない。

そして、もしこれから話すことにおぬしの状況が当てはまって「結婚できぬのは呪いじゃぁ!」と思うたとしても、わしは出張でのお祓いなどは受け付けておらぬのでご了承くだされ。たまにご依頼をいただくようじゃが、全てお断りしておる。バイトでお祓いはしておるが、それはきちんと修行を積んだその道何十年の方の付き添いと指示を受けてじゃ。一人で勝手にやろうとすれば、たちまちバレて大目玉を食ろうてしまうし、大物の妖怪や悪霊相手となれば失敗して身体を乗っ取られかねぬ。君子危うきに近寄らずじゃ!

と、わしの事情はどうでもよかろうが、そうでなくとも他人にこういった相談をするのはくれぐれも注意が必要である。中には、明らかに呪いではなくとも呪いと決めつけて高額な報酬を受け取らんとする悪徳業者もおるゆえな。そやつらにまかり間違って相談するのは飛んで火に入る夏の虫であるぞ。

さらに、通常の憑依や呪い、祟りは「本人のみが」解決できるもの。陰陽師であれサイキックであれ僧侶であれ、他人が何かを祓うても、本人に断固たる思いがなければ、祓うた何者かはすぐに戻ってきてしまう。

厄除けなどは特に、例えは最悪であるが……風呂に入らぬオタク男子の匂いをなくすため、説得して一度は風呂に入らせても、しばらくすればまたそやつは風呂を怠り匂い出すようなもの。他人が出来るのはシャワーのある場所を教え、使い方を教え、身体の洗い方を教える、それを習慣化するよう言い含める、までなのじゃ。

しかし、やり方さえ分かればそこらへんをふらついておる雑魚の魑魅魍魎やちょっとした悪意の念、誰やらの生霊も死霊も、怪しい霊能者に頼まずお祓いできるのであるから、いい時代になったといえよう。かつて、あらゆる祓いを専門家に頼んでいたのは、彼らが秘儀を隠匿していたからじゃ。

今ではクリーニングに出さずともお洒落着洗いとお洒落着洗いモード付きの洗濯機があれば自宅でドライクリーニングマークのものも洗えるように、霊的な世界の常識も変化しているのじゃ!

とはいうものの、やはり素人はもちろんのこと、ちょいと修行した程度の若い拝み屋や陰陽師見習い、普通の僧侶や神主では太刀打ちできぬ強力な呪いも世の中には存在する。

■家系にかけられた呪詛は最も手強い

それこそが家系にかけられた呪詛なのじゃ。

★「末代まで」の呪いをかける者がまず少ない

「末代まで祟ってやる」「お前の血筋を根絶やしにしてやる」は、セリフとしてはよく聞くが、実際に呪いをかける者はごく少数。普通に誰やらを恨んでも、憎いのは通常はその相手のみで、良識ある大人ならば憎き相手に子供がいても、子供には罪がないと理解して子供まで呪うことはない。

たまに本人をより苦しめるために、本人ではなく本人が大切にしている誰かを狙う呪者もいるが、それも通常は呪いの対象者が生きている間に発動し、呪いの対象者が死ねば終わる呪いである。

★末代まで呪うには相応の代償がいる

そして、己を苦しめた相手を呪うことは死後の魂のことを考えれば決してよろしくないのは当然であるが、ある程度は「負のエネルギーの等価交換」であって、呪うた側の魂へのペナルティも呪うための労力もそごで大きなものではない。大概は己の命や運気との引き換えで支払えるものじゃ。

が、相手の家系を根絶やしにする、相手が死んでもその子々孫々まで呪うには、莫大な負のエネルギーが必要となる。多くの場合「生贄」を捧げるのであるが、それは呪者自身であるか、呪者の愛する者。あるいは何の罪もない誰かを犠牲にすることもあるが、これは呪者に対して恨みを抱く新たな魂を作ることとなり非常に罪深いことである。

★なぜ「家系」を呪うのか?

それでも、長い歴史の中では「家同士の確執」や「自分の家系が相手の家の誰かに根絶やしにされた」「子供を殺され、自分の家系が途絶えた」「非常に残虐な殺され方をした」「人としての尊厳を奪われるような辱めを受けた」などで、大きな代償を払うて「相手の家系を末代まで呪い、根絶やしにする」あるいは「家系を絶やしはせず、子々孫々まで永遠に苦しめる」呪詛をかけた者もおる。

しかし、なぜ「家系」を呪うのか。もちろん、憎き相手の血筋が憎いから、ではあるが、もう一つ重要なことがある。それは、今の時代はもうあまりあてはまらぬが、昔は、

人は輪廻転生で、己の家系の子孫として生まれてくる

あるいは、かつて嫁に行った家に、転生してまた嫁に行く

ことが多かったからじゃ。

庶民はあまりなかったが、それこそお抱えの陰陽師がいたような平安貴族や、そうでなくとも伝統ある一族、伝統芸能や商売で世襲が当たり前の家系では、往々にして曽祖父の死後にすぐに生まれたその本家の男児が曽祖父の生まれ変わりであったり、かつて本家の長男の嫁だった魂が、今度はその家の娘に生まれたり、あるいは縁のある家に生まれ、その家にまた嫁いだりするのじゃな。

これが庶民であれば、末代うんぬんと言われるまでもなく、一代で終わるあるいは娘しか生まれず家系が途絶えても痛くも痒くもない。そして、家系に執着を持たなかった魂は、転生しても次は己の家系はおろか国すら違えて、江戸の町民だった魂の持ち主が、生前に聞き及び憧れていた異国・オランダに生まれ変わることすらあろう。

しかし、家系、家業の存続を使命としてきた魂は、同じ家系に生まれ直す。ゆえに「末代まで祟る」のは、一人を不幸にするだけでは足りぬほどの憎しみを抱いた呪者にとっては、同じ相手を生まれ変わっても何度も追いかけ恨みを果たせるゆえ、呪詛としてはある意味、合理的でもあるのじゃな。

当然、そのような記憶のない子孫にとっては……前世がどう、祖先がどうと言われてもやはり「他人」であるからには、理不尽の一言に尽きるがのう。

では、次回ではより具体的な話をしてゆくぞよ。



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